技の切れ、正確性、力強さ、そして安定感。姜昇利のトゥルは、非の打ちどころがないほど磨きがかかっている。昨年の世界大会で銀メダルという殊勲をあげ、今回の全日本大会では二連覇を成し遂げた。トゥルの競技で、姜昇利はもはや突出しつつある。
それ故に、姜昇利の思いは強かったに違いない。今回の全日本大会では、マッソギミドル級で必ず優勝するという目標達成である。そして、その夢は実現した。
2月26日は姜昇利にとって忘れられない日となった。
第17回全日本大会ミドル級決勝戦で、姜昇利はライバルであり、良き友である蘇秉秀と戦い、初の白星をあげたのだ。
「優勝することができて、本当に嬉しいです。全日本でピョンス(蘇秉秀)と対戦するのは4回目で、今までずっと勝てなかったので……。ピョンスとは同級生ですが、テコンドーでは先輩であり、尊敬する選手の一人です。そんな存在に勝てたことに、自分の練習、今までやってきたことは正しかった、自信を持っていいんだという確信を得ることができました」
それまで姜の前に立ちはだかっていた「蘇秉秀」という堅牢な壁。幾度となく対戦の機会を迎えたが、壁を打ち破ることはできなかった。
前大会、姜昇利は全日本出場4回目にして自己ベストの決勝まで上り、若手エースとして活躍する蘇と対戦した。気迫に満ちた攻防で善戦はしたものの、優勝トロフィーには届かなかった。しかし、このときの敗戦が彼を強くした。負けはしたものの、手ごたえを感じたのだ。今まで培ってきたものが、彼の血となり、肉となって姜を自信へと導いた。
「次はきっと!」
姜はさらに一年、目標へ向かい練習に集中した。試行錯誤の中で自分のスタイルを追求していった。さらに世界大会での経験が飛躍の牽引力になった。
「相手のペースに呑まれないように、自分のスタイルとペースを意識し、最後まで戦えたことが勝因だと思います」
切磋琢磨し、互いに向上してきた姜昇利と蘇秉秀。二人の決勝戦は、第17回全日本大会名勝負の一選にあげられよう。姜は、MVPの船水健二に並ぶもう一人の主役として一気に躍り出た。
姜昇利の目覚ましい成長。彼はいかにして勝利をものにしたのか。
高校時代、テコンドーの指導者になりたいという夢を抱き、テコンドーにより比重をおきたいという思いから内弟子を志願。当時黒帯を締めていた姜の選択から、テコンドーに対する真摯な姿勢が伺われる。しかし、テコンドー漬けの日々は試行錯誤の日々でもあった。黄秀一師範をはじめとする錚々たる師範たちとの厳しい練習。時として自分の弱さに直面し、奈落の底へ突き落とされる瞬間もあった。
「でもテコンドーをやめたいと思ったことは一度もありませんでした。テコンドーが好きだから。好きでやっていることって、辛いという感覚とは無縁なのだと思います。今の自分は、内弟子時代があってこそ存在するのだと思います」
長きに亘り修錬を積んできた師範たちから、技術はもちろん精神的部分にも触れ、多くのことを学んだ。道場の仲間たちに支えられていることを痛感した。指導にも携わるようになり、教えることの難しさや素晴らしさを噛み締め、指導者への夢はさらに強くなった。
必然のめぐり逢い。姜昇利にとって、テコンドーはもはや自分のすべてを賭けるに値する存在となっている。この熱い思いを胸に秘めて、彼は自ら選択した道を今日も力強く歩むのだ。
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