華麗な技が舞うたび、場内がどよめいた。大きな会場、熱い声援、そしてスポットライトの中で輝くスター選手たち。当時赤帯だった10歳の少女は、晴れがましい世界で活躍する選手たちに胸を高鳴らせ、その思いを募らせた。
「私もいつかきっとここで戦う!」
10年後、成長した少女は憧れの舞台で一躍主役になっていた。
少女の名は峰間照美。全日本大会史上初の女子MVPを受賞し、彼女の手には輝くトロフィーが高々と掲げられた。そのつぶらな目から大粒の涙が止めどもなくポロポロ零れ落ちる。夢を掴んだ瞬間だった。
驚くことに、その一年後、同じシーンが再現された。なんと彼女はMVPを連覇してしまったのである。
「まさか二年連続で頂けるなんて、とても信じられませんでした。個人戦で優勝し、昨年の評価になんとか応えられることができてホッとした気持ちが強く、MVPだなんて思いもしませんでした。これは私一人に与えられたものではなくて、団体戦で一緒に戦ったメンバーたち、練習につきあってくれた道場の仲間たち、応援してくれた人たちで勝ち取った栄冠だと思っています」
二年連続MVPは、過去誰も成し遂げられなかった快挙だ。勝利の女神はいま、峰間に微笑んでいるようである。
峰間がテコンドーを始めたのは6歳のころからだ。当時は親に言われるまま道場に通っていた少女だったが、気がつくとテコンドーの練習が楽しく感じるようになっていた。
特にトゥルの練習が好きだった。先生に褒められた日は嬉しく、やる気も倍増。ただ、彼女には勝つことへの執着心が不足していた。だからか、少年大会で毎回3位入賞はするものの、優勝には手が届かなかった。
「自分の中で万年3位というポジションに満足してたんですね。1位と3位の差って凄く遠くて。自分が優勝なんてとても考えられなかった」
夢は黒帯を取ること。少年部時代、峰間が抱いていた目標である。それだけにはこだわりを持ち続けた。
「黒帯だけはほしかった。だからずっと続けていたのだと思います。練習が辛いと思う時期もあったけど、やっぱりテコンドーが好きなんですよ。テコンドーの練習しない生活がイメージできないというか。もう生活の一部になっていたみたいです」
峰間は2003年に入り、大きな転換期を迎える。第14回全日本大会トゥル1段初優勝を機に、サナギから脱皮した蝶のごとく飛翔していくのだ。
彼女の躍進の跡を改めて記述すると―。
2004年 第15回大会トゥル1段第3位
2005年 第16回大会トゥル1段優勝
2006年 2段昇段。第17回大会トゥル2段準優勝、マッソギミドル級優勝
2007年 第18回大会2・3段優勝、マッソギミドル級優勝、女子団体トゥル優勝、最優秀選手賞受賞
2007年 第15回世界大会トゥル2段準優勝
2008年 第19回全日本大会2段優勝、マッソギミドル級優勝、女子団体戦二冠、最優秀選手賞受賞
見事な戦績である。
特に昨シーズンからの活躍が目覚しい。活躍の場を日本に止まらず、国際舞台へ広げ、銀メダルを獲得。強豪国・朝鮮の選手を相手にしても互角に戦い抜き、限りなくゴールドに近い内容を見せた。
そして今シーズンの全日本はさらに良かった。これまでトゥルでは女子ナンバーワンの実力を誇る峰間だったが、マッソギに対しては苦手意識を払拭できずにいた。圧力のある選手に対しては、瀬戸際で引いてしまう傾向があり、精神力の弱さを課題としていたのだ。
しかし、今年は生まれ変わったかのように、誰もが認める強いマッソギを見せてくれた。パワフルな対戦者を前にしても怯むことなく、むしろ押しの一手でプレッシャーをかけ、先手を取っていったのだ。彼女の全身には、戦うことへの強い姿勢と自信が漲っていた。
「これまで様々な人たちと出会い、多くのことを学びました。そして国際大会へ出場し、様々な国の選手たちと交流し、新たな発見、共鳴することが本当にたくさんありました。その過程で私自身成長しているのだと思います。少しずつですが、課題をクリアできて嬉しいです」
第19回全日本大会パンフレットに注目選手として登場した峰間は、印象的な座右の銘を残している。
「真実は勝つ」
これはチェコ国の標語なのだが、なぜ?
「私が憧れているチェコの選手がそう言っていたんです。あなたはどうしてそんなに強いの?と聞いてみたら、『真実は勝つからさ。僕の国の精神は、ボクの信念でもある。だから練習だって頑張れるんだよ』。彼の言葉に、私とても感動したんです」
真実。それは決して裏切らないもの。目標に向かい、懸命に努力したという真実、辛い現実が訪れようと目を背けず、勇気をもってハードルを乗り越える真実……。
「練習って真実なんですよね。やった分、ちゃんと力となって自分に返ってくる。その真実がないと負けるのは当然だし、たとえ負けてもその真実があれば、自分の中では勝っているんだと思います」
現在、峰間は選手として活躍する一方で、府中道場少年部の指導補助にも携わっている。大学生の彼女は、不定期ながら時間の合間を縫って自らの時間を提供している。自分を育ててくれた道場への愛情、恩返しの思いがあるからだ。
自らが学んだ同じ場所で、今度は教える側となっているのだから、感慨深いものがあるのではないだろうか。
「子供たちを教えることってとても難しいですね。自分もこんなふうに先生を手こずらせたのかな(笑)。でも少しずつ成長する子供たちを見ているとやりがいを感じます。全日本大会のとき、少年部みんなの応援がとても力になり、勇気をもらいました」
子供たちに伝えたいことはたくさんある。自分が紡いできた「真実」の数々を彼らに伝えていきたい。
夢は叶えるためにあり、真実があれば夢は叶うものだということを……。
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