日本国際テコンドー協会(ITF)公式ホームページ INTERNATIONAL TAEKWON-DO FEDERATION JAPAN International Taekwondo Federation
ホーム テコンドーとは 道場/リンク 日本国際テコンドー協会 グッズ 年間予定 全国師範・副師範 お問合せ
 ホーム > クローズアップ
                                                

第19回全日本大会特別企画 
 
 

 トップランナー 蘇 秉 秀 編


(第19回全日本大会優秀選手賞/男子トゥル3段優勝/男子マッソギミドル級優勝/団体男子トゥル準優勝/団体男子マッソギ優勝)

  
フミズ ケンジ)

  

信念は揺るぐことなく

テコンドーを選んだ

男の本分


第19回全日本大会優秀選手賞に選出される

マッソギスタイルが確立
マッソギ決勝戦 インターバル 冷静に戦況分析

西東京代表 団体トゥル 準優勝

激戦の3段トゥル、強豪を破り見事優勝

鶴見尻手クラブ テコンドー体験練習会模様

少年部時代、月刊テコンドーの表紙を飾る(1997年)

勝利が決まった瞬間、蘇秉秀は珍しくガッツポーズを見せた。

どんなときにもポーカーフェイスを崩さなかった彼が、こんなパフォーマンスを見せるとは、よほど嬉しい会心の勝利だったに違いない。

「昨年より今年のほうがもっと調子がよかった。今大会では調整がとてもうまくでき、またこれまで積み重ねてきた経験が活きたと思います」

意外なことに、全日本での連覇は蘇にとって初めての経験だった。彼ほどの実力があっても王座を守ることは容易ではないのだ。加えてこの階級は、精鋭たちがひしめく最激戦区で、ここ数年の間チャンピオンの顔ぶれは入れ替わっている。

「ようやく自分のスタイルが完成しました。これまで自分が求めてきたものが身体の一部となってイメージ通りに動けるし、相手もよく見える。今は誰とやっても負ける気はしません」

確かに、蘇の試合は進化していた。復活を遂げた昨年も良かったが、今年はさらにレベルアップしていた。

試合の中で蘇は完全に間合いを制していた。攻防のスイッチが的確で、相手に隙をまったく与えない。そして彼の持ち味でもある高度な技を駆使し、「ミスターテコンドー」の面目躍如たる勝ちっぷりを見せた。

彼の試合全体を通して、テコンドーの醍醐味が感じられた。

蘇秉秀は7歳のころに道場へ入門し、テコンドーひとすじの人生を歩んでいる。25歳の若さでテコンドー歴18年を誇るベテラン選手だ。少年部時代は天性の才能をもって各大会を制覇、年下の船水健二とともに名声を二分し、「テコンドー界の至宝」として注目されてきた。

彼の強さは群を抜いていた。トーナメントで蘇と当たった対戦選手はさぞかし嫌であったろう。その多彩な技のコンビネーションや激しい攻防、大人顔負けの圧力に圧倒され、戦意を喪失する選手も出た。

もはや無敵の勢い。弱冠15歳にして初出場した全日本大会でもライト級3位入賞を飾り、彼の選手生活は順風満帆に思えた。

しかし、人生とは、かくのごとし。この天才少年にも試練の時が訪れる。

期待されていた翌年の全日本ではまさかの二回戦敗退。予想外の展開に、本人が一番戸惑ったのかもしれない。

「やはり全日本は違う。そう簡単に勝たせてもらえないですね。だからその分燃えるんですけど」

以降、蘇のチャレンジは続くが、王座にたどり着くことは容易でなかった。

なぜ勝てない?試行錯誤の日々。なかなか抜け出せない長いトンネル。

7回目の挑戦となった第16回大会で、蘇はようやくミドル級金メダルを獲得した。スペシャルテクニックでも優勝し、大会MVPにも選ばれた。

「本当に嬉しかったです。安堵感というか、肩の荷が下りた感じでした。これからだ、という思いでいたのですが…」

翌年の第17回大会で連覇を目指すも、急成長の姜昇利に決勝戦で敗れ、王座を譲る。またもや勝利の女神に見放されてしまった。

このときの敗因として周囲から感情のコントロールを指摘されたことがある。自分では冷静さを保っているつもりだったが、イメージ通りに動けない自分への憤り、苦しみが別の形となってそうさせてしまったのかもしれない。

「練習してきたことを出せないときが一番堪えます。自分が目指すものを信じて必死に練習し、絶対に勝つという思いでいつも試合に臨んでいますから。

これまでは自分の中で正直負けてないという思いがありました。でも今は圧倒的な強さを見せられなかった自分だから、負けなんだと思っています。誰もが認める強さ、認めさせる強さを持っていなければ頂点には立てないし、その資格もない。そのことにやっと気づきました」

試行錯誤することも自分を進化させるうえで不可欠な要素であり、貴重な経験であることを今なら理解できる。その過程があったからこそ、今の自分が輝けるのだということを蘇は肌で感じている。

蘇秉秀は現在、自らが運営する新百合ヶ丘クラブ、尻手クラブの指導に力を注いでいる。初めて経験する道場運営は予想以上に難しいが、練習生も徐々に増え、クラブとしての形も整ってきた。私生活でも昨年結婚し、環境は大きく変化した。

「結婚はいい刺激になりました。絶対テコンドーでトップになる、そして生涯この道で生きようという覚悟ができました」


13年前、彼はテコンドーの会報誌にこんなコメントを残している。

21世紀の主役たち」という特集記事の中で語られた少年の夢は、「世界チャンピオンになること」。

成人となった蘇の目標は、いつしか全日本大会制覇が最上のものとなっていた。彼が語る言葉の端々にも全日本への熱い思いが伝わってきた。しかし、彼の中で新たな思いが芽生えたようである。それは少年のころに見た夢と同じもの。

「初めて世界で優勝したいと思うようになりました。それまではどこかで諦めていた。今の実力じゃ無理だと。でも昨年スロベニアで戦った試合で初めて手ごたえを感じました。ここで勝ちたい。勝って世界のタイトルをとるという新たな目標ができました」

マッソギでは黄秀一以来、遠のいている世界大会金メダル。周囲の大きな期待を背に、若きエースがいよいよ本気モードに入ったようだ。来年は20周年を迎える全日本とロシアでの世界大会が控えている。アニバーサリーな年を蘇秉秀の活躍で彩ってくれることに期待したい。

    テコンドー普及ため全国を周る(2006.8 宮崎にて)


全日本大会 チャンピオンたちと
 ※写真協力
  チャンプ(井上英祐) / ジャンニ・ジョスエ / 宮本哲平 / 角田由紀
 Copyright(C)2004 ITF-JAPAN All rights reserved.