■許智成選手が本番に弱いタイプとはちょっと意外です。
緊張するタイプに間違いないでしょう。大会2、3日前から気が張って眠れないんですよ。もう心臓がドキドキして。大会当日の試合待ち時間では落ち着かず、スタッフに試合の順番を何度も確認してみたり、そわそわして気が散漫しています。試合中は恐怖心が前面に出てしまい、これまで納得のいく試合がなかなかできないでいました。
■そう聞くと、ここ最近の許選手の試合は、周囲の目から見ても不完全燃焼に映りました。
なんだか試練の時期を迎えているような……。2006年の第17回全日本大会では怪我をされましたよね。
はい。2回戦の試合で眼底骨折の怪我をしてしまいました。このときも身体がガチガチで試合になってなかったと思いまます。相手に負けた以前に、メンタル面で自分に負けた結果だと受け止めています。
だから、変わりたかった。変わらなければならないと切実に思いました。精神力の強化が自分にとって一番のテーマでした。
ボクはボクサーのマイク・タイソンがとても好きで、彼を育てあげたトレーナーのカス・ダマトの言葉をいつも肝に銘じているんです。
「恐怖心というのは、人生の一番の友人であると同時に敵でもある。ちょうど火のようなものだ。火は上手に扱えば、冬には身を暖めてくれるし、腹が空いた時には料理を手助けしてくれる。暗闇では明かりともなり、エネルギーになる。だが、一旦コントロールを失うと、火傷をするし、死んでしまうかもしれない。もし、恐怖心をコントロールできれば、芝生にやって来る鹿のように用心深くなることができる」
ボクにとっては、緊張、恐怖心がキーワードで、これを克服することが自分のステップアップに繋がることだと思っています。最近ではメンタルトレーニングの本をよく読むようになりました。緊張の要因、緊張をほぐす方法など、研究していく過程で心理学にとても興味を持つようになりましたよ。
■今回は恐怖心をうまくコントロールできた訳ですね。
はい。とてもリラックスできてて、いつの間にか大会が終わってしまったというか、実感が湧かない感じでした。自分が練習してきたことを試合で出して、歯車がうまく噛み合ってくれたようです。
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