■ 今回は新社会人となった柴田選手の初インタビューとなりますね。スーツ姿がとても似合っています。
まだ慣れないもので……。今は研修期間で覚えなければならないことが山ほどあり、緊張の連続です。
■ 新春を迎え、おめでたいことが続きますね。全日本大会優秀選手賞受賞、就職、そして世界一周の旅もされたと聞きました。
はい。思い切って行ってきました。結果的には世界西一周旅行で、22カ国72都市を52日間かけて巡ってきました。
■ すごいですね。72都市とは、想像できない数です。興味深い旅のお話の前に、まずは全日本の話題から。二年連続優秀選手賞受賞おめでとうございます。
ありがとうございます。今はホッとしています。特に今回は大会を控え、長旅に出てしまったので、プレッシャーはありました。今回の優勝は喜びより安堵の気持ちというほうがピッタリです。
3月10日に帰国して、大会までカウントダウン11日。こんなにも長い間練習しないことがなかったので正直とても焦っていました。トゥルは旅先でも練習できましたが、二段に昇段し、初めて迎える全日本でしたので、不安はありました。マッソギに関しては、シャドーの練習をしたくらいで対人練習はまったくできていなかったため、もうこれはマズイ、という心境でした。でも帰国後の練習初日で感覚が蘇り、想像以上に身体が動いてくれたので、自信を取り戻せました。防具をつけての練習を2回、本格的なマッソギの練習は1回と、限られた練習しかできませんでしたが、自分が今できることとしてベストを尽くしました。たとえ、2ヶ月に及ぶ練習の空白があっても、今までの積み重ねがそれを補ってくれるだろうと確信していました。
■ 実際、試合はどうでしたか。
試合が始まると緊張しないタイプなので、トゥルは集中して自分の演技ができたと思います。マッソギでは世界大会出場権がかかる大会だったので勝負にこだわり、試合内容よりもポイントをとることに重点を置きました。田中彰選手をはじめ、他の選手たちの鮮やかな試合を見ると、反省点は多いですが……。
でも全日本での優勝は当然という意識でやっていますので、ここで負けるわけにはいかない。2006年に初めて国際大会に出場するようになったときから、意識を高く持って戦ってきました。そうじゃないと、世界の舞台で戦うことなんてできないと思いますから。
だから今できることを精一杯努力する。それはできたと思います。
■ では、興味深い世界旅行のお話について。今回、何故長期に及ぶ世界への旅を計画されたのですか。
学生を卒業し、4月から社会人となるので、人生の一区切りとして、一皮向けて成長したい、そんな思いで決意しました。「成長の旅」をテーマに、大学の友人3人で1月18日に日本を出発、旅先は意識的に普段訪れる機会のない発展途上国などを中心に選びました。
■ 訪れた国で一番感動した場所は?
たくさんあって絞れませんが、敢えて挙げるならば、スロベニアのポストイナ鍾乳洞です。世界一規模の大きい鍾乳洞で、そのスケールの大きさには圧倒され、もう感動しっぱなしでした。
また、クロアチアのドブロブニクは、町並みが本当に美しい。地中海に近い地方なので、気候も温暖でオススメです。
■ 以前TVでクロアチアを舞台とした旅番組を観ましたが、町全体に整列された赤レンガの家々と地中海の青がうまく溶け合い、本当に美しかったことを覚えています。
そうなんです。町全体が芸術作品と思わせるような素晴らしい光景でした。
■ 長い旅の道中で辛かったこともありました?
たくさんありましたよ。とにかく寒いところが本当に辛かった。クロアチアのプリトヴィッツェ湖群公園を訪れた際には、あまりの寒さに凍死するかと思いました(笑)。
■ えっ、凍死!?その地方はそんなに寒いのですか。
はい。プリトヴィッツェ湖群公園のある町は北方側に位置しているので、寒いと覚悟はしていましたが、想像を絶するほど極寒でした。帰りのバスを待つ1時間がどんない長く感じたことか。自然の厳しさを痛烈に感じた体験でした。
また、これは辛いということではないのですが、とにかく貧乏旅行の上に未知の国へのチャレンジが多かったので、国の移動以外、交通手段は主に歩きだったのです。重いバックパックを背負い、一日中歩き回る日もありました。時間の感覚は麻痺していました(笑)。
■ 本当に冒険旅行だったのですね。では国と国との移動は鉄道を利用したのですか。
そうですね。鉄道とバスがほとんどです。アフリカなどはフェリーで移動しました。
■ うぁー、船もいいですね。楽しかった思い出も多かったのではないですか。
もちろん、楽しい思い出のほうが多かったです。モナコで「モナコグランプリ」の壮大なる道をずっと歩き、帰りはタクシーでその光景を味わいながら移動したこと、旅の途中で連れの三人がそれぞれ一人となって旅を続け、一週間後に落ち合い、互いの体験を報告し合ったり……。また、旅先ではユースホステルに滞在したのですが、各国でボクたちのような旅する若者たちと出会い、交流できたことが何よりの財産です。
一番の思い出は旅の最後の夜でしょうか。アメリカ・ラスベガスで最後の褒美としてちょっとした豪遊を楽しみました。レンタカーを借りてロサンゼルスからラスベガスへ移動し、カジノを体験したり、食べ放題の店で思いっきり食べたり……(笑)。これで最後だと思うと感無量でしたね。
■ 多くの思い出ができた世界への旅を終えて感じたことは何ですか。
最後までやり遂げた達成感でしょうか。苦しいことも含め、乗り越えられたことで自信をさらに深めることができました。だから、何でも許せる気持ちなんです。きっと心にゆとりができたのでしょう。
そして人生への感謝。世界の様々な人たちとの出会いを通して、互いの違いを認め合いながら、心を通わせ、交流できることの素晴らしさを感じました。
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