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20 回全日本大会 特別企画

Special  Interview Part3


20回全日本テコンドー選手権大会

優秀選手賞 
姜 昇 利

       (カン・スンリ)

25歳/3段/副師範/足立興野道場
テコンドー歴 
11

△第20回全日本大会戦績
・トゥル3段 優勝
・マッソギミドル級 準優勝
・団体トゥル 優勝
・団体マッソギ 優勝

△過去の国内大会主な戦績
・第17回全日本大会 トゥル2段の部 優勝
・第17回全日本大会 マッソギミドル級 優勝

・第18回全日本トゥル3段の部 優勝

過去の国際大会主な戦績
・第13回世界大会 トゥル1段 第3位
・第14回世界大会 トゥル2段 準優勝
・第15回世界大会 トゥル3段 優勝

姜昇利はじつに魅力的な人物である。頭脳明晰なうえに冷静沈着。クールでありながら、独特の間合いで紡ぎ出されるユーモアが絶妙だ。

試合では、緻密に練られた勝利のセオリーに従い、スキのない試合をする。その戦略は、質が高く、抜きん出ている。さらに彼の真骨頂であるトゥルの演技からは、完全無欠への探究心を垣間見ることができる。

世界の舞台では、その技量を存分に知らしめるが如く、大会ごとに銅、銀、そして金メダルと、ステップアップに成功してきた。

今回の全日本大会では、また一段と成長した姿を見せ、私たちを楽しませてくれた。改めて彼のトゥルの技術が、日本テコンドー界の財産であることを確信させた。

すでに姜昇利は、世界連覇に向けたステージに上っているようだ。

世界チャンピオンの演技

第20回全日本大会 最高の状態で試合に臨む

第20回全日本大会 ミドル決勝戦 (VS蘇秉秀選手)


トゥル決勝戦を終えて、許智成選手と握手

2007年4月 第15回世界大会(スロベニア・ブレッド)
トゥル3段の部 優勝の瞬間


第20回全日本大会 団体戦トゥル、マッソギ W優勝
■ 優秀選手賞おめでとうございます。全日本での賞は第17回大会の敢闘賞に続き、今回で二度目になりますね。大会を振り返り、感想をお聞かせください。

まずは一番勝ちたかった種目で勝てなかったことが悔しいです。

■ それはマッソギ(ミドル級)のことですか?

はい。練習も十分積んで、コンディションも良く、そして自信もありました。試合では回を重ねるごとに調子が上がり、準決勝戦に至っては、ベストに近い状態だったので悔いが残ります。

■ 敗因はどこにあると思いますか?

積極性が足りなかったことにあると思います。試合2Rの中で勝機を掴みきれませんでした。チャンスを待つのではなく、自分からつくっていくことができないと、優勝は厳しいということを改めて実感しました。攻撃の仕掛けパターンを豊富に持つことが今後の課題だと思います。

■ トゥルの競技は本当に素晴らしかったですね。特に許智成選手との決勝は圧巻でした。両者ともに気迫あふれる競技を見せてくれ、多くの人の心を捉えたと思います。

ありがとうございます。トゥルの試合は準備が十分できていて、自信をもって臨むことができました。仲間であり、良き先輩である許智成選手と戦うことができて良かったです。

昨年の大会では、マッソギの試合で怪我を負うアクシデントもあって、応援してくれたみんなの期待に応えられなかったことが心残りでした。本当は世界大会で優勝した翌年の全日本だったので、その栄冠に恥じないような演技を見せたかった。そんな悔しい思いもあったので、今大会に対する集中力は高く、世界大会決勝戦のときに近いMAXの演技ができたと思っています。

■ スロベニアでの世界大会でもベストな試合を見せてくれましたが、今大会では師範たちをはじめ、多くの関係者たちを感嘆させる演技だったと思います。これはぜひ聞きたかったことなのですが、姜昇利選手から見るトゥルの素晴らしさは何だと思いますか。

自分の心と体との会話や勝負のような感覚、自分がどんどん研ぎ澄まされていく感覚がすごく好きです。マッソギも苦しい練習に耐えたり、試合本番で緊張と戦ったりと、自分との戦いはありますが、トゥルは練習でも試合でもただ一人、自分自身と対峙しながら演じきるものです。自分の理想やイメージを持って、ときには鏡に向かい無駄を削り、角を削っていく。そのような自分だけを見る集中力は、他の競技では味わえないものだと思います。

■ 個人戦も素晴らしかったですが、団体戦もさすがでしたね。もう団体トゥルと言えば、東東京チームだと誰もが思うほどで、この三連覇は納得の結果でしたが、団体マッソギも同時に制するとは、最高の日を迎えられたのではないでしょうか。

マッソギでは一度も優勝してなかったので、今回必ず勝つことがチームの目標でした。大会に向けて、キャプテンの許智成選手を中心に、チームが一丸となって必勝への綿密な作戦会議を行ってきました。

■ マッソギ決勝戦では選手起用を巡り、相手チームとの巧妙な駆け引きを行っていましたね(笑)。勝負へのこだわりが勝因に深く関わっているように思われます。

今回は自分たちの作戦勝ちでしょう!(笑)

飛躍の原点は内弟子時代


初めて参加した国際大会は、すべてが刺激的だった
2000年8月 第5回世界ジュニア大会(朝鮮・ピョンヤン)
(船水健二・黄大勇・金寛烈選手たちと)


2004年12月 ピーターカップ(ロシア・サンクトペテルブルク)

2005年7月 第14回世界大会(オーストラリア・サンシャインコースト)

2007年8月 第11回東京都大会にて記念撮影
姜三兄弟(右/兄の昇日さん 左/弟の昇烈さん)


苦楽を共にし、強い絆で結ばれた須賀大輔1段(当時)と
2005年3月 第13期協会内弟子修了式にて

内弟子修業を終え、指導者としてスタートを切る
2006年3月 第14期協会内弟子修了式にて

内弟子時代の濃密な歳月が開花し、快進撃を遂げる

現在指導している足立興野クラブの稽古生、父母たちと

2007年10月 足立区功労者表彰式にて(二列目 左端)
■ 姜昇利選手は荒川道場の練習生としてスタートしたんですよね。

はい。中学2年のとき、友だちに誘われて道場へ見学に行ったのですが、同行した自分のほうがテコンドーを気に入り、すぐに入門しました。このときはまさか生涯テコンドーを続ける気持ちになろうとは思ってもみませんでした(笑)。

その友人には感謝しています。ボクとテコンドーを結びつけてくれたのですから。

■ その友人が姜昇利選手の運命を決定づけたのですね。

そうですね。テコンドーをやっていない自分のことなど、今では考えられません。礼儀を重んじる人間関係や終わりなき基本稽古の反復だったり、トゥルを追及し磨いていく過程だったり、これらを含んだ道場に漂う空気がとても好きで、そこにいる自分がとても充実し、輝いていると感じます。テコンドーが自分にすべてを与えてくれ、すべてが良い方向に流れていると思える。荒川道場という恵まれた環境で練習し、素晴らしい仲間に出会え、そして情熱を持つ自分を発見できたことで、なんて自分は幸運な人間なのかと思っています。

■ 姜昇利選手、許智成選手、船水健二選手、金寛烈選手の四人はとても仲がいいですよね。少年部時代を共に過ごし、今ではトップクラスの選手として活躍しています。

四人の共通点のひとつは、テコンドーが大好きでたまらないことです。だから意気投合するんですよね。許選手とは道場以外でも同じ高校でのテコンドー部で共に汗を流した最も近い存在であり、尊敬する先輩でもあります。

■ 姜昇利選手を支えてくれる存在として、道場の仲間以外にもご家族の存在が大きいと思います。兄弟三人(兄の昇日さんと弟の昇烈さん)がテコンドーの選手ですが、ご両親がそのすべての試合に応援に来られていますよね。深い理解と愛情を感じます。一番のサポーターなのではないでしょうか。

はい。本当にありがたいと思っています。こうして頑張れるのも家族の後押しがあってのことです。

■ 両親の期待に応え、選手として世界タイトルをはじめ、素晴らしい成績を残されている姜昇利選手に憧れ、目標としている練習生も多いと思います。

そこで質問します。今までの修練時期を振り返り、一番成長したと実感した時期はいつごろですか。

やはり内弟子時代だと思います。

■ その間、何を学びましたか。

自分で考えることを学びました。

何故できないのか、何故勝てないのか。何故そのように行動したのか……。課題を振り返り、反省し、そして教訓を活かしていく。内弟子時代は時間がたくさんあったので、そのようなサイクル、考えて努力することが当たり前のようにできたんですよね。今思うと、このことが成長する上で一番大事なことであり、そんな時間を過ごせた内弟子時代に感謝したいです。おかげでテコンドーだけでなく、自分の言動など、全てにおいて考える習慣がつきました。それでも、予期せぬとき、焦っているとき、感情的になっているとき、惰性になっているときなど、状況により考えることが疎かになることが今でもあって、自分の未熟さに反省することも多々あります。もっと早い段階で考えることを習慣づけ、自分を第三者的な視点から見ても正しい言動や指導、修練ができるように努めたいです。

■ 姜昇利選手の緻密な研究と練習量、そして冷静な判断力は内弟子時代に育まれたものなのですね。もちろん、生来の思慮深さがなければ気づくことも教訓を抱くこともできません。そこに姜昇利選手の飛躍のカギがあるのではないでしょうか。そもそも黒帯だったにもかかわらず内弟子になりましたよね。

はい。本当は高校卒業後、すぐに内弟子を志願していたのですが、師範たちから社会経験を積むことも大事なことだというアドバイスを受けて、20歳のときに内弟子になりました。

■ 一度社会に出たことで、最初のときよりモチベーションが下がったりしませんでしたか。

いいえ。むしろ自分の気持ちを再確認しました。テコンドーを生涯続けたい、テコンドーの指導者になりたいという思いが強くなっていました。

■ でも決して楽ではなかったと思います。テコンドー漬けの毎日は、想像以上に厳しい日々ではなかったですか。

何が一番苦しいかというと、テコンドー漬けの毎日の中でモチベーションを保つことでした。内弟子の修了は、ゴールではなくスタートなので、内弟子時代の一年間は、テコンドーに対する自分の気持ち、情熱が試される一年なのだと思います。

■ 姜昇利選手は歴代の内弟子の中でも大活躍した一人ですよね。世界チャンピオンに輝いた内弟子は後にも先にも姜選手だけです。また、ライト級六連覇という驚異の記録を達成した田中彰選手や姜選手の内弟子パートナーでもあった須賀大輔選手も全日本で活躍されています。内弟子時代、二人は本当に仲が良く、ボケとツッコミの漫才師コンビのような可笑しさで周囲を和ませてくれました(笑)。

はい。須賀選手は内弟子時代、苦楽を共にした同志です。

須賀選手には本当にお世話になりました(笑)。練習漬けで疲れ果てたとき、身に漂う須賀選手特有のマイペースな雰囲気や大らかな性格にいつも癒されていました(笑)。

今は離れた場所で、お互いに指導者として務めていますが、心は通じています。須賀選手は、互いのことを知り尽くし、いつまでも信頼できる親友のような存在です。周囲の人たちから珍しいくらい仲の良い内弟子だったとよく言われるのが自慢だったりもします。ボクが今頑張れるのも須賀さんのおかげです。

■ 本当にステキな関係ですね。互いに切磋琢磨し、高めあう存在なのだということが伝わります。この内弟子修業を終えて、姜昇利選手がそれこそメキメキと頭角を現しました。初めて蘇秉秀選手を破り、全日本ミドル級優勝を遂げた2006年、世界大会でトゥル3段優勝を飾った2007年は、姜昇利選手にとって忘れられない年となりましたね。

そうですね。今までの努力が実った瞬間でした。

世界連覇への夢


2006年2月 第17回全日本大会決勝戦
蘇秉秀選手を破り、ミドル級初優勝の瞬間゙

2003年7月 第13回世界大会(ギリシャ・テッサロイキ)
トゥル1段の部 第3位
2005年7月 第14回世界大会(オーストラリア・サンシャインコースト)
トゥル2段の部 準優勝

世界大会連覇への夢を目指して
 
■ 姜昇利選手にとって、蘇秉秀選手はいわば目標のような存在だったと思います。その彼に勝てた瞬間、何を思いましたか。また、勝因はなんだったと思いますか。

これまでの積み重ねや努力、練習方法が正しかったということが証明され、実った瞬間でした。イチ選手としては何よりも嬉しいことだと思います。

蘇選手との対戦では自分のペース・スタイルで試合運びを終始することが必要であり、それを17回大会では実現できたことが勝因だったと思います。

■ 現在、ミドル級といえば、二人の対戦がクローズアップされますが、姜選手にとって、蘇選手はどんな存在ですか

蘇秉秀選手はボクが持っていないものをたくさん持っています。だから昔から羨ましくて憧れるようなところが多いです(笑)。そういう意味では、たとえ勝負に勝ったとしても目標であり、これからも目標であり続ける存在だと思います。周りからライバルだと言われること自体、恐縮なんです。

蘇選手とボクは似たようなところもありますが、まったく逆なところが多いです。あくまでもボク個人の感想で言わせてもらえば、二人は表と裏のような、陰と陽の存在でしょうか。

選手としてこれからも互いに切磋琢磨し、さらにハイレベルな技術や巧妙な駆け引きを駆使した試合で大会を盛り上げていきたいです。そして、指導者としても刺激しあい、信頼を深め、テコンドー界を担っていく大事な仲間として共に精進していきたいと思っています。

余談ですが、今回の全日本大会終了後、選手たちがほとんど帰り、最終的に選手控え室には許智成選手、蘇秉秀選手、そしてボクとの三人になったのですが、そのとき、お互いに自分の試合について感想を聞き合う場面がありました。こういうシーンはこれまでになく、なんだかすごく新鮮で、ほのぼのとした気分になったことが印象的でした。 

■ テコンドー界を牽引する三人が、ときには幼なじみのように親しみ、ときにはライバルとして刺激しあい、ときに指導者として信頼しあう。とてもステキな関係ですよね。

では、現在、姜選手は足立興野道場を中心に指導者としても活躍されていますが、将来へのプラン、夢をお聞かせください。

自分や同世代の仲間たちのように、テコンドーが大好きで仕方ない!といった子供や仲間をたくさん増やしていきたいと思います。そういう人材を育てられれば、自然と新たな指導者が増え、魅力が伝えられ、テコンドー界が盛り上がっていくと思います。そのためにも今の自分にしかできないことに全力を尽くすのみです。試合では高いレベルの内容を見せ、演武や指導ではテコンドーの魅力をより多くの人たちに伝えていきたいと思います。

■ 姜昇利選手をはじめ、これからのテコンドー界を牽引する若き指導者たちの高い志、活躍は本当に頼もしい限りです。

では最後に、10月に開催される世界選手権に向けて抱負をお話ください。

トゥル3段の連覇を目指します。世界大会での連続優勝者は、日本のテコンドー界ではまだ誕生してないので、ぜひチャレンジしたいですね。対戦者に差をつけられるような高い技量で、金メダルを再び手にすることができたら最高ですね。

その夢、ぜひ実現してくださいね! これからの活躍、大いに期待しています。

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