■ 姜昇利選手は荒川道場の練習生としてスタートしたんですよね。
はい。中学2年のとき、友だちに誘われて道場へ見学に行ったのですが、同行した自分のほうがテコンドーを気に入り、すぐに入門しました。このときはまさか生涯テコンドーを続ける気持ちになろうとは思ってもみませんでした(笑)。
その友人には感謝しています。ボクとテコンドーを結びつけてくれたのですから。
■ その友人が姜昇利選手の運命を決定づけたのですね。
そうですね。テコンドーをやっていない自分のことなど、今では考えられません。礼儀を重んじる人間関係や終わりなき基本稽古の反復だったり、トゥルを追及し磨いていく過程だったり、これらを含んだ道場に漂う空気がとても好きで、そこにいる自分がとても充実し、輝いていると感じます。テコンドーが自分にすべてを与えてくれ、すべてが良い方向に流れていると思える。荒川道場という恵まれた環境で練習し、素晴らしい仲間に出会え、そして情熱を持つ自分を発見できたことで、なんて自分は幸運な人間なのかと思っています。
■ 姜昇利選手、許智成選手、船水健二選手、金寛烈選手の四人はとても仲がいいですよね。少年部時代を共に過ごし、今ではトップクラスの選手として活躍しています。
四人の共通点のひとつは、テコンドーが大好きでたまらないことです。だから意気投合するんですよね。許選手とは道場以外でも同じ高校でのテコンドー部で共に汗を流した最も近い存在であり、尊敬する先輩でもあります。
■ 姜昇利選手を支えてくれる存在として、道場の仲間以外にもご家族の存在が大きいと思います。兄弟三人(兄の昇日さんと弟の昇烈さん)がテコンドーの選手ですが、ご両親がそのすべての試合に応援に来られていますよね。深い理解と愛情を感じます。一番のサポーターなのではないでしょうか。
はい。本当にありがたいと思っています。こうして頑張れるのも家族の後押しがあってのことです。
■ ご両親の期待に応え、選手として世界タイトルをはじめ、素晴らしい成績を残されている姜昇利選手に憧れ、目標としている練習生も多いと思います。
そこで質問します。今までの修練時期を振り返り、一番成長したと実感した時期はいつごろですか。
やはり内弟子時代だと思います。
■ その間、何を学びましたか。
自分で考えることを学びました。
何故できないのか、何故勝てないのか。何故そのように行動したのか……。課題を振り返り、反省し、そして教訓を活かしていく。内弟子時代は時間がたくさんあったので、そのようなサイクル、考えて努力することが当たり前のようにできたんですよね。今思うと、このことが成長する上で一番大事なことであり、そんな時間を過ごせた内弟子時代に感謝したいです。おかげでテコンドーだけでなく、自分の言動など、全てにおいて考える習慣がつきました。それでも、予期せぬとき、焦っているとき、感情的になっているとき、惰性になっているときなど、状況により考えることが疎かになることが今でもあって、自分の未熟さに反省することも多々あります。もっと早い段階で考えることを習慣づけ、自分を第三者的な視点から見ても正しい言動や指導、修練ができるように努めたいです。
■ 姜昇利選手の緻密な研究と練習量、そして冷静な判断力は内弟子時代に育まれたものなのですね。もちろん、生来の思慮深さがなければ気づくことも教訓を抱くこともできません。そこに姜昇利選手の飛躍のカギがあるのではないでしょうか。そもそも黒帯だったにもかかわらず内弟子になりましたよね。
はい。本当は高校卒業後、すぐに内弟子を志願していたのですが、師範たちから社会経験を積むことも大事なことだというアドバイスを受けて、20歳のときに内弟子になりました。
■ 一度社会に出たことで、最初のときよりモチベーションが下がったりしませんでしたか。
いいえ。むしろ自分の気持ちを再確認しました。テコンドーを生涯続けたい、テコンドーの指導者になりたいという思いが強くなっていました。
■ でも決して楽ではなかったと思います。テコンドー漬けの毎日は、想像以上に厳しい日々ではなかったですか。
何が一番苦しいかというと、テコンドー漬けの毎日の中でモチベーションを保つことでした。内弟子の修了は、ゴールではなくスタートなので、内弟子時代の一年間は、テコンドーに対する自分の気持ち、情熱が試される一年なのだと思います。
■ 姜昇利選手は歴代の内弟子の中でも大活躍した一人ですよね。世界チャンピオンに輝いた内弟子は後にも先にも姜選手だけです。また、ライト級六連覇という驚異の記録を達成した田中彰選手や姜選手の内弟子パートナーでもあった須賀大輔選手も全日本で活躍されています。内弟子時代、二人は本当に仲が良く、ボケとツッコミの漫才師コンビのような可笑しさで周囲を和ませてくれました(笑)。
はい。須賀選手は内弟子時代、苦楽を共にした同志です。
須賀選手には本当にお世話になりました(笑)。練習漬けで疲れ果てたとき、身に漂う須賀選手特有のマイペースな雰囲気や大らかな性格にいつも癒されていました(笑)。
今は離れた場所で、お互いに指導者として務めていますが、心は通じています。須賀選手は、互いのことを知り尽くし、いつまでも信頼できる親友のような存在です。周囲の人たちから珍しいくらい仲の良い内弟子だったとよく言われるのが自慢だったりもします。ボクが今頑張れるのも須賀さんのおかげです。
■ 本当にステキな関係ですね。互いに切磋琢磨し、高めあう存在なのだということが伝わります。この内弟子修業を終えて、姜昇利選手がそれこそメキメキと頭角を現しました。初めて蘇秉秀選手を破り、全日本ミドル級優勝を遂げた2006年、世界大会でトゥル3段優勝を飾った2007年は、姜昇利選手にとって忘れられない年となりましたね。
そうですね。今までの努力が実った瞬間でした。
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