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20 回全日本大会 特別企画

Special  Interview Part5


20回全日本テコンドー選手権大会

敢闘賞 
山本 愛美

       (ヤマモト・アミ)

28歳/1段/東京・綾瀬道場
テコンドー歴 4

△第20回全日本大会戦績
女子マッソギミドル級 優勝
・女子団体トゥル 優勝
・女子団体マッソギ 優勝

△過去の国内大会主な戦績
18回、第19回全日本大会
  女子マッソギミドル級準優勝


過去の国際大会主な戦績
・第4回アジア大会
  女子団体トゥル・マッソギ 準優勝
4回アジア大会
  女子マッソギー69kg 第3位

とにかく今年の山本愛美は強かった。身体もメンタルも充実し、圧倒的な強さでその存在感を見せつけた。男子にも勝るファイティングスピリットが、他を寄せ付けぬオーラを与えていた。

山本愛美はついに約束を果たしたのだ。乗り越えられないハードルを鮮やかに跳び越え、彼女の満面の笑みがバラ色に輝いた。

三度目の挑戦にして果たした全日本優勝。その栄冠の陰には、彼女が流した涙があり、練習を積み重ねた歳月があり、家族や仲間たちの温かい応援があった。

この日に噛み締めた感動が、かけがえのない宝物であることを山本は感じている。

しかし、これが終わりではない。

世界の舞台が彼女を待っている。日本テコンドー界の期待を背負い、その熱い情熱で世界へはばたく日が待っているのだ。

勝利へのランニングロード


第20回全日本大会女子ミドル級決勝戦(VS峰間選手)
チャンピオン対策と研究、体力補強も功を奏し、ついに優勝

悲願の初優勝。感極まり同門の椿順子選手と熱い抱擁

優勝の瞬間、誇りを胸にガッツポーズ。その視線は
真っ先に応援に来ていた家族に向けられていた

2008年4月 第4回アジア大会(カザフスタン・アルマトイ)
団体女子トゥル、マッソギ準優勝という好成績に喜び合う

今大会の山本選手はとにかく強かった。ランニングを積み
重ねたことで体力が補強され、試合に余裕が生まれた

昨年の全日本大会敢闘賞受賞の取材から一年が経ちました。ついに優勝を成し遂げましたね。

優勝できて本当に嬉しいです。課題をひとつ克服した気分です。

今大会での山本選手の活躍は本当に素晴らしかったと思います。強さにエンジンがかかっていたような凄味を感じました!

そうですか! だったら、持久力をアップした成果だと思います。じつは昨年の11月ごろからマラソンを始めたんです。大会直前までに走った距離を合計したら、350kmになっていました。

350km! マラソン経験のない私には想像つかない距離ですが、ひとつ分かることはコツコツ走り続けたということですよね。

はい。週34日をペースに、家の近所をランニングコースにして1時間半走っていました。

なぜマラソンを始めようと思ったのですか。

メンタル面が大きいですね。昨年の秋、練習でちょっとしたスランプに陥ったんです。そのころは全日本を意識する時期に入っていて、成長していない自分に苛立ちを感じていました。私の場合、道場へ通うには往復2時間半かかるため、道場での練習が限られてしまいます。思うような練習ができていない状況に焦り、悶々としながら惰性的になっている自分に気付き、嫌になりました。だから、焦るより、できることからやればいいと考えを切り替え、マラソンを思い立ったんです。

インスピレーションというものですね。

そう、インスピレーション。マラソンをすることは自分にとって絶対プラスになる! そんな直感です。そして確信もありました。

それは勝利への確信ですか!

もちろん、そのころはまだ出口が見えませんでしたが、運動の基本中の基本であるランニングをすることで、全ての邪念を捨てて、心身を鍛えることができるという確信です。それに加え、嫌いなことにチャレンジすることに意義がある訳です。

嫌いなこととはマラソン?

そうです。普段苦手としていることにチャレンジし、克服しなければ、チャンピオンには勝てないと思いました。


その直感が的中し、見事優勝を成し遂げたのですね。

結果論ですが、体力の余裕が精神面の余裕にも繋がり、試合中相手はもちろん、コート全体がよく見えるようになりました。昨年までは試合の22ラウンド中、中盤にはスタミナが落ち始め、相手の動きすら読む余裕がなくなり、万全とはいえない状態で試合をしていたと思います。でも今回は試合開始から終了まで同じペースで、冷静に自分の試合運びができました。改めて持久力をつける大切さを痛感しましたね。もちろんスタミナだけで勝てる訳はなく、調整期間中に峰間照美選手の試合ビデオを徹底的に研究したことが勝利に繋がったと思います。また、ランニング中にはイメージトレーニングをすることにも集中できたので、これもプラスになりました。

今回の優勝は、山本選手の強い意志と努力の賜物でしょう。マラソンは現在も続けているのですか。

そうなんですよ。もう生活の一部になってしまって。私、大会にも出場しているんですよ。昨年の11月末に行われたつくばマラソンでは、10kmにエントリーし、10km総合女子で1200人中69位になったんです。これですごく自信がつきました。

1200人エントリー中69位はスゴイ!

最近も国内三番目の規模に当たる霞ヶ浦マラソン(10マイル 16km)に出場し、入賞しました! 2006人エントリーで総合142位、29歳以下女子(454人中)で8位になりました。

あっぱれです! 山本選手はやはりスーパーウーマンですよ。その潜在能力には脱帽します。山本選手にとって今年は最高と年になりそうですね。

夢は努力で実現できる


2005年5月 デビュー戦のASC大会で大活躍 MVP受賞!

第4回アジア大会 女子団体戦(VSカザフスタン)
国際舞台でもアグレッシブな試合は健在、勝利を飾る

2006年4月 第2回茨城県大会 団体トゥル優勝で喜び
はじける瞬間(写真右端/緑帯時代の山本選手)

級者時代、男顔負けのスタイルで頭角を現した山本選手
道場練習を終えて 厳斗一師範と

2008年1月 ついに黒帯取得
同期の金恵順選手と

2006年5月 第6回埼玉県大会にて 緑帯時代の山本選手

今回の全日本優勝、厳斗一師範から祝福の言葉はありましたか。

いい試合だったと言ってくださいました。優勝の瞬間も、横のコートの審判席にいた厳師範と目があったのですが、嬉しさ余り、師範に向かって思わずガッツポーズをとった私に、師範も頷いてくれました。「よく頑張った、おめでとう!」そんな声が聞こえるような瞬間でした。

なんだか感動的なシーンですよね。山本選手を育て、見守ってきた厳師範も感無量だったと思います。師範の頭の中では山本選手の入門時代が走馬灯のように蘇っていたかもしれませんね。これは昨年のインタビュー時にもお聞きしましたが、山本選手はそもそも格闘技に興味があり、探している中でテコンドーと遭遇したのですよね。

そうです。当時は格闘技にとても興味を持っていて、キックボクシングジムなど、いろいろ体験していた過程でテコンドー道場を見つけました。

そして厳斗一師範と出会うわけですね。そのときの印象はどうでした?

綾瀬道場で爽やかにご挨拶いただいたのを覚えています。あまりの清々しさに思わず「師範はどちらにいらっしゃるのですか」と聞くところでした()

確かに!あの端正な顔立ちと武道は結びつきませんよね(笑)。

ええっ、この人が師範? 私のイメージでは、師範という方はもっとご年配の方では……。あまりにも爽やかすぎる!

その容貌以上に高い技術と強い精神力、誠実な人柄で多くの弟子を育てられている厳師範のもとで、山本選手は多くのことを学ばれたのではないですか。

テコンドーの技術もそうですが、厳師範には人間性の面で学んだことのほうが多いです。その人柄やブログで訴えかけてくるメッセージは、私の奥深いところまで響くものが多く、自分の浅はかさを思い知らされることも多々ありました。面と向かって話すと未だに緊張するので、師範、ブログ再開を期待しています!

厳師範のブログは本当に読み応えがありますよね。面白く、的確で、深みある言葉が心に響きます。そのブログにも綾瀬道場はじめ、厳師範率いる道場の様子が紹介されていますが、印象として道場生間の結束力が固いですよね。

そうですね。私の入門動機でもあるんですが、道場のアットホームな雰囲気がとてもいいんですよ。みんな仲が良く、とても楽しいです。

山本選手にとって道場の仲間たちはどんな存在ですか?

ここにも自分の居場所があるんだなぁって思わせてくれます。学校や会社って同じような人間が集まるところだと思うのですが、オムスクールの仲間は性格も職業も多彩で、教わるものはテコンドーだけではありません。

■ テコンドーを始めて自分が変わったと思う点はありますか。

以前より自分に自信を持てるようになりました。ほとんどのことは努力で実現できると確信するようになり、また達成できなくてもその過程を楽しめるようになりました。

■ テコンドーを続けていく過程で壁にぶち当たったことはありますか。

もう壁だらけです。臨んでみたら以外と低かったり、力ずくでぶち破ったり、いろんな壁を乗り越えたつもりですが、何度越えても「あ、また壁ですか」みたいな(笑)。マラソンを始めたキッカケも壁にぶち当たったことで試行錯誤し、挑戦したわけで、でもそれが結果的に吉と出ました。だから、諦めず、続けていけば、乗り越えられると信じてます。

今年の全日本では、精神的に大きなものを得ました。正確に言うと、得たものを全日本で認識することができました。

■ 得たものとは何ですか。

夢は努力次第で実現できるという確信です。

二人三脚の夢


第20回全日本大会 団体女子トゥル 優勝(写真左)

第4回アジア大会 大活躍した女子団体チームとともに

2007年4月 第18回全日本大会表彰式(写真中央)
全日本初出場でマッソギミドル級準優勝を飾る


2009年4月 霞ヶ浦マラソンに
エントリーし、見事入賞を飾る


霞ヶ浦マラソン
 ゴールの瞬間(写真左) 14キロ地点(写真右)

2年連続で全日本敢闘賞受賞!!
世界の舞台での活躍に期待がかかる

■ 山本選手といえば、やはり触れなければならないのがそのスーパーウーマンぶりです。主婦であり、キャリアウーマンであり、テコンドーチャンピオンであり、さらにアイテム(?)が増え、マラソンランナーにもなりました。いったい、どんな一日を過ごしているのですか。

道場へ練習に行く日の一日のスケジュールは、6時前起床→7時過ぎ自宅を出て会社へ移動(土浦から日本橋へ)→9時〜18時半勤務→道場へ移動(日本橋から亀有)→19時半〜22時練習→23時半帰宅→入浴・家事→1時半就寝

マラソンをする一日のスケジュールは、勤務地からの帰宅途中に買物→20時帰宅→料理・洗濯等→21時半〜23時マラソン→入浴・身支度(翌日の準備やスキンケア?)→1時就寝

マラソンは週3回のペースで行っています。

■ 聞いているだけでも、めまぐるしいスケジュールです。身体は持ちますか。

はい。健康なのが自慢です(笑)。

■ でもこのスケジュールの遂行、日々可能ですか。

気を抜くと不可能になるので、帰宅後から寝るまでの間はずっと立ったまま過ごしています。

■ 立ったまま?

はい。ちょっとでも座ってしまうと、もうやり抜くことができないので。だから帰ったら即行お風呂に入って、洗濯して料理してと、間髪入れずどんどん進めていきます。

■ うぁー、これはスーパーでは弱いので、ハイパーウーマンと呼ばせてください!(笑)

特技は料理だと聞いています。女性として万能なうえ、こんなに努力する姿を見ていたら、ご主人もテコンドーを続けることに理解を示すしかないでしょう。

私がテコンドーを続けることに対し、ずっと応援してくれています。今では、私以上に主人のほうがテコンドーに関心が高いんですよ(笑)。

■ 今回の優勝も喜ばれていたのではないでしょうか。

自分以上に喜んでくれて「やっとアミちゃんの力が表に出たね」「テコンドーをずっと続けてて良かったね」と褒めてくれました。普段とは違い、全日本のときだけは暫くの間、褒められっぱなしでした。

■ では、ロシアでの世界大会もご主人はエールを送ってくれてるのですね。

はい。全日本が終わった数日後、主人のほうから「ロシアに行ってこい」と言ってくれました。

■ ご主人は山本選手の一番のサポーターなんですね。

主人には一生をかけてありがとうと伝えるつもりです。恩をいま返すのは無理ですから(笑)。主人の理解とサポートなしに今の生活はありません。私が怠けて練習に行くかどうか迷ったとき、「とにかく行け」と言って、尻を叩いてくれます。練習ばかりで家を空けることが多いときも文句のひとつも言いません。いつも好きなようにさせてもらって申し訳なく思うこともあります。主人の家族とも頻繁に会ってテコンドーの話をします。今回も家族が優勝祝賀会を開いてくれました。

家族に恵まれた分、自分なりの形で恩を返したいと思っています。

■ 全日本ではご家族も応援に来られたのですよね。

はい。一家総出で来てくれました。本当に嬉しかったです。試合中も応援の声が耳にガンガン入ってきて、励まされました。普段感情を表に出さない私の父が涙目になって応援していたことを後で聞いて、とても感動しました。

■ この特集インタビューにこれまで登場された選手たちがそうであるように、山本選手もご家族をはじめ、多くの人たちの支えで今回の栄冠を勝ち取ったのだと思います。みんなのエールに応えるため、次なる目標、世界大会に気合が入りますね。

国際大会は今回で2回目になります。初めて経験したアジア大会では、手ごたえを感じる前に、気づけば試合が終わっていました。自分の試合をするのではなく、テコンドーをすることに精一杯でした。ただし、海外選手と戦う感覚を感じることはできたので、世界大会ではその経験を活かせるよう自分のコンディションをつくっていきたいと思います。大会までに最高の状態で自分の持っているものを全て出し切れるようにコントロールすることをテーマに掲げ、練習に取り組みたいと思っています。

■ 最後に世界大会の目標をお話ください。ハイパーウーマンですから、ハイパー級でお願いします!

初の世界大会、夢を語るなら、ドーンと大きくいきます。ズバリ、表彰台に上りたいです!

■ その夢、ぜひ実現してくださいね。みんなで応援しています。

  山本愛美選手の恩師、厳斗一師範のコメント
山本愛美は大人でした。

他の女性に比べて体が大きいだけでなく、彼女の心も大きいものだったのです。

山本愛美は、他人の教えに対し謙虚に耳を傾ける事ができる大人でありますし、周囲を見渡す広い視野から自分の果たすべき責任を全うする大人でありますし、何よりもテコンドーの犠牲にならぬよう仕事や家事そしてプライベートをきちんと整えておく大人であります。

山本愛美は強い人間でした。

全日本大会で優勝する力を持っているだけでなく、彼女は強い意思を持っていたのです。

山本愛美は、守るべき約束をきちんと守り、そして守り続けることのできる強い意志を持っていますし、自分の不利益をひけらかさずに、相手の利益を称える強い意志を持っていますし、自分のいらだちを耐え他人のいらだちを明るい笑顔で受け入れることのできる強い意志を持っています。

山本愛美が優勝できたのは、彼女が強い大人であったからだと思います。テコンドーに関する体力や技術が他の選手を上回ったというよりは、彼女の大人としての正しい生き方が優勝をもたらしたのだと言えるのです。常に真っ直ぐ、常に明るく、常に真剣に、そんな彼女の毎日が彼女自身の力を開花させたということです。

山本愛美の、強く正しい毎日の生活を考えますと、目標さえ与えてあげれば、たとえ時間がかかろうとも、必ず達成される気がします。その目標がたとえ世界チャンピオンであっても、必ず達成される気がするのです。