■選手復帰後は中四国大会に続き、国際試合に出場されましたね。ITF−ロシア主催のピーターカップ(2007年12月)は二度目の出場でしたが、マッソギで見事銀メダルを獲得しました!
まだマッソギに対する恐怖心や不安要素はありましたが、ロシアでは不思議と身体がよく動き、集中力も途切れることなく冷静な気持ちで試合に臨めました。リハビリを頑張ったと、褒美をもらった気分でした(笑)。
■いやー、本当に嬉しかったことでしょう。木村選手以上に周囲の仲間たちが喜んだと思います。ただし、神様はここでまた木村選手に新たな試練を与えるのですね。翌年のアジア大会で膝の半月板損傷という大きな怪我をされました。
団体戦マッソギの試合中でした。跳び蹴りのジャンプ着地時に、軸足の膝がバキッと鳴って電流のような激痛が走り、その場で倒れこんでしまいました。もう立てない状態だったので、試合を途中棄権せざるを得ませんでした。
カザフスタンの病院に運ばれている間は泣きっぱなしでしたね。痛みと悔しい思いが入り混じり、軽いパニック状態になっていました。何をしにカザフスタンまで来たのか、みんなに迷惑だけかけたのではないか。もう自暴自棄になっていました。
■人生最大の落ち込みですか。
もうこのときばかりは本当にテコンドーをやめようかと思いましたね。
■最大の危機を乗り越えられたバイタリティーの源は何だったのでしょうか。
やはり人との繋がりでした。いつも応援してくれているテコンドーの仲間たちの存在だったり、トレーニングセンターの先生だったり、ときには勤めているジムの会員さんだったり。不思議なことに、テコンドーから離れたいと思うと会員さんなどから「テコンドー頑張ってね」と声をかけられるんです。これはもう離れられないんだなと、結局導かれている自分に気がつきます(笑)。
■本当に不思議ですよね。最後はちゃんとスタート地点、初心に戻されている(笑)。
二度目の怪我のときは相当落ち込んでいて、テコンドーのことは一切考えたくない精神状態だったのですが、ある会員さんから水泳をやらないかと誘われ、膝のリハビリも兼ねてはじめたところ、これが結構面白い。水泳を通じて、テコンドーを始めたころに感じた上達する喜びや達成感を思い出したんですよ。 そして、負けず嫌いな気質が高じて会社の水泳チームにも入り、大会まで出るようになりました(笑)。
■どうりで木村選手、肩幅が少し逞しくなりました(笑)。
水泳をしている間は何もかも忘れられるので、とてもリフレッシュできました。水泳を通して新しい仲間もでき、そこでまた気持ちが救われました。
何かに思い悩んでいるときは、そこからちょっと離れて別のことに没頭してみるのもいいものだと思いました。テコンドーから離れて水泳に取り組むことで、物事を客観的に考えられるようになり、自分の中に占めるテコンドーの存在、位置が再確認できました。
私からテコンドーを取ると何もないことに気がついたんですよ(笑)。
■木村選手にとってテコンドーはどんな存在でした?
自分を映す鏡のような存在です。いつでも自分と向かい合うことができる。嫌でも向き合わされる。自分の長所や短所、課題などを教えてくれたり、私を成長させる心の糧のような存在でもあります。そしてテコンドーをしているときの自分が一番好きなんです。
これは今だからそう思えるのですが、膝の故障はなるべくしてなった結果だと思うんですよね。
■なるべくしてなったとは、どういう意味ですか。
自分の長所に頼りすぎるあまり、弱点を補う努力を怠った結果というべきでしょうか。私の場合、ボディバランスが非常に悪く、筋力の強い部分と弱い部分がはっきりしています。それまでは強い部分に頼りきり、力任せに技を出していました。そんなことを繰り返していたら、一箇所に負担がかかり過ぎ、怪我をするのも当然です。もちろん当時はそういう考えには至らず、どうして自分だけがこんな目に合うのかと悶々としていましたが……(笑)。
■バランスが悪いとは意外です。木村選手の蹴りは安定感抜群で、手本となるような素晴らしい蹴りだと思いますが……。
怪我をするまではごまかし、ごまかしで技を出していました。当時はそれでいいと思っていたんですよ。でもリハビリをする過程で、いろいろなことが分かりました。身体についてたくさん勉強しましたよ! ボディバランスを整えるトレーニングセンターには今も通い続けています。その過程で学んだ知識、トレーニングは目から鱗が落ちる発見でした。自分の身体の弱い部分、強い部分を把握し、トータル的に鍛えることで身体の動きは愕然と変わることをいま実感していますよ。
■どんな発見がありましたか。
たとえば、筋肉を意識的に操ることです。トゥルをするとき、一箇所の筋力で技を出すのではなく、必要だとされる様々な部位の筋肉を使うことでとても力強い動作になります。バランスがよくなり、安定感が生まれる。身体をトータル的に鍛え、複数の筋肉を意識的に使うことで初めてテコンドーの動作が成立するのだということが理解できました。
■なるほど、木村選手のトゥルがパワーアップした理由がここにあるようですね。
自分のことを分かっているようで分かっていない。テコンドー以外にもそういうことってたくさんありますよね。失敗やアクシデントはそれを気づかすための警鐘のようなもので、そこから再スタートすればいいのだと、自分の経験を通して思えるようになりました。
■そう語る木村選手が頼もしい限りです。
そう考えられるようになったのもこの四年の経験があったからです。
この場を借りて、私と同じ悩みを抱えている選手たちにぜひ伝えたいことがあります。それは、決して諦めないでほしいということです。
もしダメージを受けて道に迷っていれば、ときにはそのまま流されてもいいと思います。
悶々と悩むときがあってもいい。少しテコンドーから離れてみてもいい。情熱だけは変わらずに持っていれば、周囲が自然とテコンドーへ導いてくれます。
いまリハビリ中の選手たちがいたとしたら、自分の身体によく語りかけ、提起された問題点を解決するトレーニングを積めば、いくらでも再開できるし、試合でも活躍できると思います。
■木村選手からのメッセージ、怪我で苦しんでいる選手たちにとって何よりのエールだと思います。
経験者である私が頑張ることで、少しでも励ますことができれば嬉しいですね。
■世界大会を区切りとし、再スタートを切った木村選手の次なる目標は?
やっとスタート地点に戻ってくることができたので、次は自分の力で結果を出したいです。次の世界大会までの二年間、提起された課題を計画的に取り組んで、強い自分を作り上げていきたいと思います。
■二年後がとても楽しみですね。では最後に、未来のチャンピオンを目指す少年、少女たちに向けてアドバイスをいただけますか。
以前、母校の小学校で講演する機会があり、そのときにも話しましたが、夢は必ず叶うということを子供たちに伝えたいですね。夢の大きさは様々ですが、自分を信じて、諦めずにやり遂げることができれば、いつか必ず夢は実現すると思います。
私の好きな言葉は「I can do it」(やればできる)。
怪我を克服したとき、私はこの言葉が持つ意味を理解しました。
みなさん、やればできるんですよ!
躍動感あふれる木村選手のトゥル。この素晴らしい蹴りは世界一に等しい価値がある
二年後の世界大会に向け、さらなる飛躍が期待される(2009年 第16回世界大会)
|