■じつは柴田選手のインタビューは、この一年半の間で三度目になります。確率的にいいますと、これって凄いことなんですよね。それは、柴田選手の近年の活躍が目覚しいということを物語っています。率直に聞きますが、どうしたらそのように活躍できるのですか。
いや、嬉しいですね。たくさんクローズアップしてもらうことは単純に嬉しいものです。それもモチベーションのひとつになります。また、国際大会に積極的に出場したり、海外修業を行うことも刺激となり、モチベーションとなって練習内容、練習の質は明らかに変わると思います。
ボクはこれまで何事にも最善を尽くすことを人生のテーマに、努力してきたつもりです。ただ、テコンドーに出会ったとき、その幸運に感謝しました。これしか考えられないというものに出会えたわけですから。だから、自分の努力は努力の枠に当てはまらないんですよ。好きなことをしているだけですから。もう趣味を超えて完璧に生活の一部ですよね。一週間以上道衣を着ないと、もう気持ち悪くてしょうがない。だから長期の旅行は心から楽しめないんですから、ある意味不幸な人間です(笑)。それくらいいつもテコンドーが心の中に存在してます。それで上達しなかったら悲劇ですよね。
僕はいつも思うのですが、基本的に全ては「好きこそ物の上手なれ」ですよ。「下手の横好き」という言葉も存在しますが、このケースは滅多にない。そういった意味では上手くなるのは当然なわけです。
■ それでもコツみたいなものはないですか。上達するコツです。
そうですね。よく考えながら練習することでしょうか。
練習って素直じゃないんですよね。結構勘違いしてる人が多いんですが、練習って平気で簡単に裏切ることもあるんですよ。
いくら練習しても、間違ったことをしていれば、全く成長は望めませんし、ときには逆走していて足を引っ張るときだってあります。当然ですよね、正しいこととは逆の方向に熱心に取り組んでいたら、熱心に逆効果がついてくるわけです。練習した、汗をかいたっていう達成感だけが心にのさばり、自分の成長について客観視できなくなるんですよ。それって、「量」に騙されているわけです。
ボクが指導するとき、練習生にもよく話すことなんですが、たとえ準備体操ひとつにしてもよく考えながら取り組むことを念押ししています。たとえば、アキレス腱を伸ばすストレッチをした場合、いまどこの筋や腱が伸縮しているのか、頭の中で考えながら行わなければならない。練習でやることはすべてに意味があるわけで、何も考えず、間違った動きをしていれば、それは全くもって時間の無駄というものですよ。
とにかく量より質なんです。たとえば、適当にミットを100本蹴るなら、本気で30本ミット蹴ってください。そして、そのあと70本適当に蹴ってる人を横目でみながらしっかり上質な睡眠を楽しんで下さい、って感じです(笑)。やみくもに行う練習は自分を裏切ることもあるが、上質の練習は必ずその分を応えてくれる。ときには何倍ものボーナスに変わって、返ってくることだってあります。これは自分が人と差をつけるために始めたときからそう意識をしてきて、その実体験による話なので、信じてください(笑)。とにかく、練習イコール「よく考えて練習すること」であって、それ以外は練習「のようなもの」以外のなにものでもありません。断言できます。
■まさしく上質な練習が現在の柴田選手をつくり上げたのですね。そして自らの経験を踏まえ、後進の指導にも質のいい練習を徹底されている。
柴田選手は現在、取手道場の他に自らが創設した日大テコンドー部の監督を努められていますが、今回の活躍は部員たちにも大きな励みになるのではないでしょうか。
そうなれば嬉しいですね。今回の世界大会で吸収したことをこれから部員たちに伝えていきたいと思います。若い世代の役に立てば、これほど嬉しいことはないです。
これはボクの目標のひとつでもありますが、将来的には日大を押しも押されぬ国内最強の大学クラブに育て上げたいと思っています。
■柴田選手の情熱と努力によってつくられた日大テコンドー部の成長に注目していますよ。
では最後に、世界大会インタビューシリーズの共通質問です。未来のチャンピオン目指す少年、少女たちに向けてメッセージをお願いします。
まずキッカケが親のススメであっても、やらされているという受け身の考えは捨て、まずテコンドーを好きになってください。
好きになれば、練習が楽しくなります。
練習が楽しくなれば、上手になりたいと思うはずです。
上手になりたいと思えば、必ず強くなれます。
いい流れのサイクルが生まれます。
あと、ボクの色帯時代を振り返ると、先生から10を聞いたら、10を覚えていました。
単純に、10聞いて5吸収する人より倍速で先へ進めると思っていましたから。
いやな奴ですよ、人と差をつけるにはどうしたらいいかなんて考えてる高校生、可愛くないですよね(笑)。
どんな些細な言葉でも、ポソっと言った言葉でも絶対覚えてます。そのポソっと言ったことが、じつはコツだったりすることもあるので、そんな小さなことを来週まで覚えてるか、覚えてないか。
その積み重ねが運命の分かれ目です。
ポソっと言う言葉はそう何度も言うようなことじゃないですから貴重なんです。
まぁ、そんなこと言いながら、道場だったり後輩たちには「10聞いたら1覚えて帰ればいい。
その積み重ねが〜」なんて言ってます(笑)。
もちろんそれって凄い大切なことなんですけど、でもやっぱりどう考えても10吸収した人の方が、伸びが早いのは日の目を見るより明らかですよ。
また、分からないことがあれば、先生にとことん聞きましたし、とことん自分から見てもらいました。
先生の立場からしたらボクのような教え子、たまったものじゃないでしょう(笑)。
実際、当時のボクの執拗な質問攻撃は、戸島先生を困らせていました。当時の僕は戸島師範から質問小僧と呼ばれてましたから(笑)。
どんな些細なことも分からなければ聞いていたので、いつも決まって「自然にやればいいんだよ。自然と。」と言われてましたね。
だから今でも僕の道場の指導の時などは、基本的には自分から「見てあげるよ」とか「教えてあげるよ」だとかは決して言いません。本人が自分から積極的に来るまでは何もせずただ見守っています。たまにポツっとアドバイスするくらいです。
そのかわり自分から質問などをしてきたら期待以上のものを返してあげているつもりです。
だから少年少女はまず自分から積極的に先生をつかまえることですね。分からないことをわからないままにしない。
先生に個人的にみてもらってできないことをできるようにする。
そうやって1つ1つ問題をクリアにしていけば、はじめに言ったいい流れのサイクル、のその前段階である、「できるようになれば好きになる」に到達すると思うんですよ。
今もそうですが、当時のボクはテコンドーに夢中でしたから。テコンドーにかかわること、全てに興味がありました。
■なにしろ、黄帯のときに「テコンドー総合本」を読破するほどです!
気づいたら、読みきってました(笑)
ちなみに僕のブログ「至誠たれば感天たり」というタイトルは総合本からとっています。
何かに夢中になる。ここにはとてつもないパワーが潜んでいます。これを感じている人はたくさんいると思います。僕の場合、その対象がテコンドーであったというだけのこと。また、夢中になる度合が人より大きかったというだけのこと。それとほんのちょっとの「練習の質を考える頭」です。
「夢中になること」を手に入れれば、世界チャンピオンだって夢ではありませんよ!
目指すは世界の頂点!二年後の世界大会に向け、心新たに再スタートを切った柴田選手
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