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16回世界大会 特別企画

Special  Interview Part 4



16回世界テコンドー選手権大会

トゥル4段 第3位 
奈良岡 和子

       (ナラオカ・カズコ)

34歳/4段/副師範/荒川道場 テコンドー歴 16年 

−国際大会主な戦績

2009年 第16回世界大会 女子トゥル4段 第3位

2007年 第15回世界大会 女子団体トゥル 準優勝

2006第3回アジア大会女子マッソギライト級 準優勝

−国内大会主な戦績

2005〜2007年 第16〜18回全日本大会
         女子マッソギライト級 3連覇


1999年〜2002年 第10・12・13回全日本大会
         女子マッソギ無差別級 優勝

どの世界でも目標とされる存在がある。たとえば、フィギアスケートなら、世界の女子選手の多くがミシェル・クワン(米国)に憧れを抱く。

テコンドーの世界でも同様、女子のカリスマ的存在として、まず奈良岡和子が挙げられるだろう。

彼女のデビューは鮮烈だった。当時の女子マッソギの試合をみると、女性という殻から抜けきれないでいたが、奈良岡の存在によりその殻は見事に破られた。

高校時代、空手の強豪校で鍛えられていただけあって、彼女の戦い方は別格で、男子さながらに激しく鋭い技の攻防戦を得意としていた。

周囲の期待どおり、全日本大会では圧倒的な強さで優勝街道まっしぐら。日本テコンドー界の女王として一時代を築いていく。

今年、4段に昇段し、女子初の副師範にも任命された。

今回の世界大会では、女子コーチとして指導に務める一方、選手としてもチャレンジし、トゥル4段で見事、銅メダルを獲得。初代女王の底力を証明してみせた。

女王の風格


女子コーチを務める一方、選手として大活躍!
(2009年10月 ロシア 第16回世界大会)


木村志穂選手と共に副師範の任命を受ける。二人は世界大会でもメダルを獲得した(2009年9月 第55回昇段審査)

影響を受けたチョンウ師範と共に、世界のテコンドー仲間たちと交流(2008年4月 カザフスタン 第4回アジア大会)

大会役員パーティーにて
(2009年10月 ロシア 第16回世界大会)

圧倒的な強さで全日本連覇を成し遂げる
(2005年3月 東京 第16回全日本大会)
トゥル4段銅メダル獲得、おめでとうございます。

ありがとうございます。メダルをとれたことは嬉しいですが、正直言うと、未だ実感が湧かないんです。そもそも試合に出る予定ではなかったので、選手として相応しい生活をしていませんでしたから。

出場は4段への昇段で決まったのですよね。

そうです。それまではコーチとしてこの大会準備に関わっていたので、選手意識よりどうしても指導管理する立場で考えていました。それでも試合に出るチャンスをいただき、正直とても嬉しかったですし、このめぐり合わせに感謝しました。

一緒に昇段された朴禎祐師範、戸島皇継師範、圷政治師範と共に練習されたと聞きました。

はい。毎週金曜日に荒川道場で指導終了後に残って練習しました。4人とも4段の昇段審査を控えていましたから課題の反復練習を通じて同じ境遇にある連帯感を楽しむことができました。また同時に昇段した場合の世界大会出場に備えて4段の型を覚えることも課題でした。

ただ、練習を重ねるに連れ、この世界大会は勝敗を気にせず、チョンウ師範の精神で臨もうと思いました。

チョンウ師範の精神とは?

試合の勝敗以上に、自分の努力の成果を人に見てもらうという考え方です。

これは朴禎祐師範のテコンドーに対する姿勢を見て学びました。

また辛い練習の積み重ねなしに勝てるほどテコンドーは甘い世界ではありません。私は勝ちを求めるほどの練習をしていませんでしたから。

この考え方のお陰で、ただ純粋に、そして懸命に競技することに集中できました。国内、国際大会問わず、今まで多くの大会に出場しましたが、今回ほど緊張しなかった試合はありませんでした。

「練習は本番だと思い、本番は練習だと思え」

この言葉は、高校の空手部時代に先生に教わった言葉ですが、まさにそのものでした。

では、チョンウ師範精神が功を奏したわけですね。ある意味、恩人でしょうか(笑)。 

はい。とても尊敬しています。昔の私だったら、今回の状況では気持ちが焦ったりしていたかも知れませんが、今ではこういう考え方が今の自分らしいと思います。きっと精神的に成長したのですね。

時間がない中であれほど素晴らしい試合をするとは、さすがです。きっとこれまで培った実力の賜物なのでしょう。選手として一時代を築き、現在の女子選手層の礎を築いた奈良岡選手だからこそ、強豪の朝鮮相手にも堂々たる試合ができたのだと思います。

今回は試合を楽しみながらできたことが良かったのかもしれませんね。また、国際大会での経験も今回で10回目ですし、コーチとして一歩引いて客観的に見ることができるので、冷静に対応できたのかもしれません。

4段の試合でメダルを獲得できたことは意義深いことだと思います。寝食を共にした代表選手団にも、また日本の師範たちにも刺激になったと思いますよ。

テコンドーとロシア


第15回世界大会では選手としてエントリー。女子団体トゥルで、準優勝を飾る(2007年4月 スロベニア)

団体トゥル試合直前、選手たちにアドバイスする奈良岡
コーチ((2009年10月 ロシア 第16回世界大会)


コーチ・選手・ロシア語通訳を兼任。写真は選手登録手続き(2008年4月 カザフスタン 第4回アジア大会)


強豪国、朝鮮選手と対戦し、善戦する奈良岡選手
(2007年4月 スロベニア 第15回世界大会)

ロシア留学後、参加したピーター・カップでは通訳者として大活躍(2004年12月 ロシア・サンクトペテルブルク)

安定感抜群の試合内容で、世界ナンバー2に輝く日本女子団体トゥル(2007年 スロベニア 第15回世界大会)

第3回アジア開会式。選手入場行進を前に
(2006年11月 インド・ニューデリー)

第3回アジア大会で女子マッソギライト級銀メダルを獲得
(2006年11月 インド・ニューデリー)
コーチの立場としての感想はいかがですか。

日本のトゥルに関しては申し分ないと思います。このまま磨いていけば、いずれ朝鮮を追い抜き、世界最高峰の地位を築くことができると確信しています。

マッソギに関しては、世界との距離は縮まっていると思います。各々が今大会で自分が体感して見つけた課題を消化し、実力を更に蓄えることができれば、次は世界により近づけるのではないでしょうか。

大会全般を通して印象的だったのは、やはり朝鮮の女子の活躍。彼女たちの試合は本当に素晴らしいと思います。何が素晴らしいのかというと、技術的には相手がどんなに強豪だろうと、体格が大きかろうと、戦い方が一貫していて決して乱れない。精神的にも絶対自分が強いという気持ちで試合に臨んでいます。相手の動きやレベルをよく見定めて一瞬の迷いもない。私たち日本人と同じような体格で、あそこまで高い技術の試合ができるのだと思うと、私たちのやるべきことはたくさんあることを感じています。

コーチを務めながらも選手として活躍し、その一方でロシア語通訳者としても大忙しでしたが、奈良岡選手とロシアは深い縁があるようです。

そうですね。私が初めてロシアの地を訪れたのも世界大会に選手として出場するためでした。1997年の夏、開催地のサンクトペテルブルクへやってきた私は、この国に一目ぼれしてしまいました。

具体的にどこが気に入ったのですか。

どこというのではなく、すべてが斬新で気に入りました。特に、ロシア語のインパクトは凄かったんです。

ロシア語のどの辺が気に入ったのですか。

全く意味不明であることと、言葉の響きが美しいところです。

美しいといえば、ロシアの白夜もいいですよね。

そう、白夜を体験できたことも新鮮でした。

マトリョーシカもカワイイ。

マトリョーシカ、最高です!

そんな思いが最高潮となって、2004年、ロシア留学を敢行されたのですね。

1997年の世界大会以来、いつかここに住みたいという気持ちが消えることはありませんでした。ロシア語を勉強してロシア社会とコミュニケーションがとりたいという思いもあって、どうせならこの際、ロシアで暮らしてみようと決断に至りました。

うぁー、潔い決断力です。

いま行動に移さなければ、一生後悔すると思いましたから。やはりロシアへ行って正解でした。

ロシアでは大会開催地と同じサンクトペテルブルクに滞在されたのですよね。

はい。語学学校に通いながら、週3回シモコフ道場に通いました。シモコフは現役時代、ロシアチャンピオンとして名を馳せたロシアでも有名な選手でして、日本で行われたモランボンカップにも招待されています。現在は多くの強豪選手たちを育て上げ、指導者としての評価を高めています。

今大会でもシモコフ監督率いる選手たちは男女ともに強者だらけでしたよね。

こんなツワモノたちに混じって練習しただけあって、帰国後の奈良岡選手、パワーアップしてました。

シモコフは普段とてもやさしい人物なのですが、指導するときはとても厳しいんです。練習を一生懸命しなければ、容赦なく怒られます。

コワオモテの選手でも怒られることはありますか。

集中していなければ、誰だろうと叱られます(笑)。

ロシアの選手たちから学んだ点は?

テクニックに関して多くのことを学びましたが、特に彼らのメンタル面で刺激を受けました。

どんな刺激ですか。

彼らは世界で優勝するのは当たり前のことだと普通に思っているんですよ。そのモチベーションが凄い。

確かに、そういう風情が顔に現れていますよね。今大会でのロシア選手を見ますと、男子なら、年齢が若くても落ち着いていて鋭さを醸し出している。女子はというと、あの彫刻のような美しい顔が、試合では豹変し、ファイターの顔つきになっているんですよね。

そうなんです。自分の道場に何人も世界チャンピオンがいれば、強くなるのは当たり前だな、と納得させられてしまいます。

やはりロシア留学は大正解でしたね。テコンドーだけをとっても、いまや世界ナンバー2の強豪国で修業できることは大きいと思います。そして、奈良岡選手が学んだロシア語にしても、ITF−JAPANへの貢献度は高い。国際大会の度に、各国のパイプ役として重責の担ってくれています。日本の組織にとって大変ありがたい存在だと思います。

ありがたいお言葉、恐縮です。私の語学力などまだ半人前で、もっとレベルを高めなければならないと痛感しています。ただ、たまたま惹かれて始めたロシア語が微力ながらテコンドーに役立てられているとすれば、嬉しいですし、好きなテコンドーと好きなロシア語を同時に生かせる今の環境は私にとって本当にラッキーだと思います。

生涯テコンドーと共に


女子コーチとして半年に及ぶ強化練習を共にした女子選手たちと共に(2009年10月 ロシア 第16回世界大会)

初出場したマッソギの試合を終えて(1993年 黄帯時代)


初の国際大会で女子マッソギライト級 第3位入賞
(1995年 カナダ ノースアメリカン大会゙)


無敵の選手時代を経て、現在選手として、コーチとして
女子テコンドー界を牽引(2007年 第15回世界大会)


国際大会経験も豊富で、各国のテコンドー友人たちとも交流を深める。写真はカズフスタンの選手と記念撮影
選手として研ぎ澄まされ、最高の時期を迎えていた第11回世界大会にて(1999年 アルゼンチン)
奈良岡選手はこの秋、副師範になられましたね。ITF−JAPANとしては女性初の大役です。おめでとうございます!

このような重責を任され、大変光栄に思っています。微力ながら後進の指導にも力を注ぎでいきたいです。

奈良岡選手はテコンドーを始められて何年になるのですか。

16年になります。

16年もの長い歳月、ひとつのことを続けていることは凄いと思います。情熱なしにはできないことですよね。

いまでも覚えています。奈良岡選手と初めてあった日のことを。黄帯時代に会報誌「月刊テコンドー」の道場生紹介コーナーに登場していただいたのですが、武道とはかけ離れた容姿に驚いたものです。清楚なお嬢様のようで、バイオリンでも奏でているような雰囲気でした。

わははっ。遠い昔の話ですよね(笑)。

でもお話を聞くうちに、この選手は強くなると予感させるオーラのようなものを感じました。毅然としていて、目力がある。実際、奈良岡選手のマッソギは別格でした。

高校時代には空手を習得し、インターハイにも出場されたと聞いています。でも空手ではなくテコンドーを始められた。その辺の縁が不思議ですよね。

もともと格闘技が好きで、大学に入ったら新しいことにチャレンジしたいと思っていた矢先、偶然テコンドー部の練習が目に入り、興味を持ったのがキッカケでした。

練習は面白かったですか。

練習をすればするほど、上達していく過程が楽しかったですね。大学での部活なので、男女区別なくマッソギの練習をしていました。テコンドーはやはり蹴りが華麗ですから、いろいろな技を習得したいという向上心にかられますね。

とにかく圧倒的な強さでしたよね。それまでの女子の試合スタイルを塗り替えたと言っても過言ではないでしょう。女性の殻を破り、男子さながらに激しい攻防ができる選手が登場したと期待を抱いたものです。

現在に比べると、当時はまだ女性の層が厚くなかったですから。今活躍している選手の方がずっと上です。

いま現在でもその強さは光り輝いていたと思います。

いえいえ、そんなことはありませんよ。でも私もいつでまでも現役でいたいという意識が強いです。試合にこそ出なくてもやるからには実践的にやりたい。おこがましいのですが黄秀一師範のように試合のあるなしに関わらず常に自分に厳しくあれる人に憧れます。

ぜひ奈良岡選手の勇姿をまた見たいですね。

目指すは世界ベテラン大会!年齢としてまだエントリーできないので、今はそのときに備え、今できることを大事に、そして怪我に注意し、心身ともに万全を期して準備できたらと思っています。

■ベテラン大会出場意外に、目標としているものはありますか。

生涯道衣を着続けていきたいですね。

また、指導者としての役割も果たしていきたいと思います。副師範という重責を任され、身が引き締まる思いでいますが、いまできることに最善をつくしたいと思います。

現在、週一回荒川道場の指導を担当していますが、世界大会で見てきたことを私なりに研究し、練習生たちに伝えていきたいです。また朴禎賢師範のように粛粛とテコンドーを追求する能力も覚えたいです。

最後に、未来のチャンピオン目指す少年、少女たちに向けてメッセージをください。

世界大会で勝つためには、自分が一番だと思い込むことが大事だと思います。

自分が一番強いと本気で思い込まなければならないと思います。試合では、勝って当たり前というくらい高飛車な気持ち、気迫がなければ、世界とは渡り合えないのではないでしょうか。

世界チャンピオンになった選手たちは、みんな厳しく高いモチベーションで戦っています。ですから、目標が高ければ高いほど、200パーセントの準備と自信を持って進んでください。

ただ、コートを下りたら思いやりある優しい人であるべきです。本当に強い人ほど人に優しいと思いませんか?

数々の素晴らしい実績を残し、女子テコンドー界を牽引してきた奈良岡選手。今なお高い目標に向かい、情熱をもってテコンドーの道を歩んでいる

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