日本国際テコンドー協会(ITF)公式ホームページ INTERNATIONAL TAEKWON-DO FEDERATION JAPAN International Taekwondo Federation
ホーム テコンドーとは 道場/リンク 日本国際テコンドー協会 グッズ 年間予定 全国師範・副師範 お問合せ
 ホーム > クローズアップ
                                                

21回全日本大会 特別企画 (Part-10 ラスト)

Special  Interview


21回全日本テコンドー選手権大会

最優秀選手賞 
蘇 秉 秀
       
       (ソ・ピョンス)

26歳/3段/副師範/東京・新百合ヶ丘道場テコンドー歴 20

△第21回全日本大会戦績
・トゥル3段 優勝
・マッソギミドル級 優勝
・団体トゥル 優勝
・団体マッソギ 準優勝

△国内大会主な戦績
18回〜第21回全日本大会マッソギ
 ミドル級四連覇
・第19回全日本大会トゥル3段 優勝
 優秀選手賞
・第16回全日本大会 マッソギミドル級優勝 スペシャルテクニック優勝
 団体トゥル・団体マッソギ優勝
 最優秀選手賞

△過去の国際大会主な戦績
14回世界大会 団体トゥル 準優勝
・第11回世界大会 トゥル1段 第3
 団体トゥル 準優勝
・第5回世界Jr大会 トゥル1段 第3位

蘇秉秀はまた進化していた。これまで積み上げてきた練習量、経験が彼をより高い次元へと押し上げ、圧倒的な存在としてのオーラをつくりあげていた。

「テコンドーの素晴らしさを伝えたい。それが自分にできる唯一のこと」

その熱い魂が吹き込まれた試合の一つひとつが、代々木体育館の観客を巻き込む。人々は目の前に広がる強さと美しさを秘めた達人の技に酔いしれ、声をあげずにはいられなかった。

最後の試合


自らに使命を課し、テコンドーの魅力を伝える試合を全うした
蘇秉秀選手。ITF−JAPANのエースとして頼もしく成長した


蘇選手の華麗な技が決まる度に会場がどよめく
(2008.3 第19回全日本大会決勝戦)

ハイレベルの攻防。記憶に残る試合となった朴ソンファ選手
との決勝戦(2007.3 第18回全日本大会


宿命のライバル、姜昇利選手との決勝戦。気迫ある試合が
繰り広げられた(2010.3 第21回全日本大会)


愛弟子の平間陽太くんと記念撮影(第21回全日本大会)

マッソギミドル級四連覇を決めた瞬間(第21回全日本大会)

MVPは第16回大会以来、2回目の受賞となりますが、これまでの試合と比較し、今まで以上の気迫を感じました。 

今大会では、これまで自分を支えてくれた方々のために戦うという気持ちで試合に臨みました。
こんな緊張感をもって試合に出たのは生まれて初めてです。
 

■それは周囲に人たちに対する感謝の気持ちからですか。 

はい。今の自分が存在するのは周囲の人たちのおかげです。
大好きなテコンドーに打ち込める環境にいて、代々木体育館のような大きな舞台で試合ができる。
こんな素晴らしい環境に恵まれ、幸せを感じています。
だから黄進首席師賢をはじめ、日本にテコンドーを普及し、支えてきた方々に恩返しがしたいと思いました。
自分が唯一できること、それはテコンドーの素晴らしさを自分の試合を通して伝えることです。それを今大会の目標とし、試合に臨みました。

だからか、今回の試合では、蘇秉秀選手の真骨頂とも言える華麗な技がいつもより多く使われていましたね。 

とにかく会場を沸かせるような試合をしたかった。
勝ちにこだわるよりも「魅せる」という意識を強く持ちました。
これは昨年の大会後の話ですが、厳斗一師範から自分の試合についての感想を聞かれたことがあるんです。
ボクが「良かったと思う」と答えると、「本当によかったと思う?」と問い直されました。
よくよく考えてみると、勝ちはしたけど、心の奥から満足できる試合ではなかったと思いました。
自分ができることを100%出し切れたのか。
自分らしい試合ができたのか。そう自問自答してみると、自信がないわけですよ。

だから、今年は一試合一試合が最後だという気持ちで臨みました。
自分の力を信じて、極限状態で持っているすべてを出し切ろう、と……。

その思いは試合に十分反映されていたと思います。マッソギでは蘇選手の技が繰り出される度に、会場からはどよめきが起こっていました。

マッソギは最初から突っ走る気持ちで臨み、これまでの試合の中で一番いい内容だったと思います。
自分が持っているものを出し切り、自分らしい試合をする、そのイメージに近い動きができたので達成感があります。
こんな気持ちは第18回大会での朴ソンファ師範との決勝戦以来ですね。100%満足できる内容ではありませんでしたが、やり遂げたという思いがあります。

大会4週間前に肋骨を骨折するアクシデントがあったということをまったく感じさせない動きはさすがです!

怪我の当初はまったく不安がなかったわけではありませんが、絶対優勝するという強い気持ちをモチベーションに、焦らず、いまできることに集中しようと努めました。
一週間は安静に過ごし、その後は無理のないトレーニングで筋力を維持しながら、最後にMAXの状態で練習に集中した結果、とてもいいコンディションで本番に臨めたと思います。
 

試合全体を通して素晴らしいパフォーマンスでした。
そして決勝戦は昨年同様、姜昇利選手を迎えましたが、やはりライバル対決は面白い。
もう何度も戦っているので、互いの手の内も知り尽くし、とてもやりづらい相手だったのではないでしょうか。
 

多少やりづらい部分もあります。
姜選手にはかなり研究されていると思いますし。

決勝戦の1R目では自分のペースをつくれず、姜選手のほうが有利だと分かっていました。
でも負ける気は全くなく、2Rで絶対勝てると思っていました。
このまま自分のスタイルを貫けば、必ず勝てると信じていましたから。その矢先、インターバル中に少年部で教えている平間陽太くんが駆け寄ってきて「先生、頑張ってください!」と心配そうな表情で声をかけられましてね。
もうその一言にスイッチが入りました(笑)。

「陽太くんに心配されるような試合をしているのか」

なおさら自分らしい戦い方で絶対勝ってやる!
ひたすら攻めの一手で、強さが試合全体を呑み込むような戦い方で勝利するんだと確信ながら試合をしていました。

それまでの試合以上に決勝戦は熱かったですね。
スイッチが入っているのが観ている側にも十分伝わりましたよ(笑)。
一方の姜選手からもこの一戦に賭ける熱い思いが伝わってきて、両者ともに闘志溢れる好試合だったと思います。
完全燃焼したのではないでしょうか。

一気に駆け抜けた爽快感を感じ、とても気分がよかったです(笑)。もちろん、これで満足してはいません。
新しい課題も見つかり、もっと練習を積んで成長したいと思っています。

基本がすべて

しなやかで切れのある動作は洗練を極め、
「品格」を漂わせている(第21回全日本大会)


究極の自然体を理想に、蘇秉秀選手のトゥル確立

トゥル、マッソギ、団体トゥルを制し、5年ぶりにMVPを獲得

団体トゥルでは素晴らしい内容を披露し、優勝を飾る

MVPインタビューを受ける蘇秉秀選手

トゥルでは二年ぶりの優勝でしたね。蘇選手特有のしなやかで切れのある動作はさらに磨きがかかっていて、素晴らしい内容だったと思います。 

今までの中で一番満足のいくトゥルができました。
理想のイメージと身体が一体化できたと思います。
でも今はもっと巧くできるという気持ちです。

イメージと身体が一体化する。
言葉ではさらりと聞こえますが、それこそ達人の域ですね。
蘇選手はトゥルを磨く過程でどのようなイメージを大切にしているのですか。

究極の自然体です。

自然体というと?

トゥルはどうしてもカタチにこだわりやすくなります。
格好良く見せるにはどうすべきかと、表面上ばかりを考えすぎてしまう。でもカタチ優先にやってしまうと、いつの間にかそのカタチに縛られてしまいます。

それって本末転倒なんですよね。
そもそもトゥルは動作ごとに目的や意味があってつくられているわけで、当たり前のことですが、原型どおり、つまり基本どおりにやることが自然なんです。

自然体で演じて、結果、周囲に格好良いと思わせることが本当の意味での演出なんじゃないでしょうか。
もちろんその段階に至るには、長い歳月をかけて技を磨き、極めなければなりませんが……。

世界大会などを見ますと、多くの国の選手たちが強豪である朝鮮のトゥルに影響を受けていると思います。

ボクから見ると、朝鮮選手はじつに自然体でトゥルを演じていると思います。
自然にしてあそこまで格好良く演じられるのは本当に素晴らしい。
物凄い練習量に裏打ちされた確固たる基礎、そして高度な技術がなければあのような試合はできないはずです。

それを表面上ただ真似ることと真に修得することでは、大きな違いがあると思います。

基本の大切さを痛感させられるお話ですが、それが蘇選手の信条でもあるわけですね。
普段の練習メニューも基本中心なのですか。

はい。トゥルに限らず、すべての練習でほとんどが基本稽古です。
たとえばサンドバックを蹴るときでもトルリョチャギ、ヨプチャチルギなど基本蹴りを何度も反復します。
ボクは20年もの長い間テコンドーをやっていますが、今でも基礎的な練習がメインで、応用的なものは少しやるだけです。

何ごとも基礎的な部分が大事なのですね。

どんなに素晴らしい建築物でも土台がしっかりしていないと、少しの衝撃で崩れてしまいます。

蘇選手の強いボディバランスはこの基本稽古でつくられているわけですね。
地味な練習であっても、この点を踏まえなければ、上のクラスでは通用しないということが痛感させられます。

基本の大切さを改めて痛感したのは、初めてMVPを受賞した第16回大会の時期です。その年は選手として転換期だったと思います。自分の中での基本という位置づけが明確になり、基本を中心とした練習の中でどんどん成長している自分を感じたんです。そしてもっと巧くなれるという思いが確信となりました。

プロ意識で戦う

蘇秉秀選手の華麗な技が炸裂(第21回全日本大会)

「プロ意識」をもって戦う蘇秉秀選手

第16回世界大会で強豪相手に好試合を見せた(2009.10)

世界の強豪たちから刺激を受け、次の世界での飛躍を誓う

第16回世界大会マッソギの試合を前に集中力を高める

■蘇選手はどちらかというと対戦相手に対する研究をしませんよね。

まったくしません(笑)。

■それはどうして?

面倒くさがり屋な性格だからでしょうか(笑)。

自分の考えでは、研究を重ねても相手が上手で、自分のイメージとは違う動きをしてきたり、意表を突かれたりと予測不可能なケースだったら、たちまち対応ができず、逆効果を招くことだってある訳ですよ。それなら、何もない無の状態のほうが遥かにいい。
勝っても負けても自分の試合を貫き通せるわけですから、悔いもないでしょう。

でも、対戦者に対する研究はしませんが、格闘技全般やスポーツにおいてトップクラスで活躍する選手たちの試合や動きはチェックします。

自分で言うのもなんですが、ボクは物事のコツを掴むのが得意なんです。どうすればあのようにできるかというコツを一目で発見できるんですよ。

■それは素晴らしい特技ですね。というか才能のひとつですよね。

自分が直感的にいいと思うものは取り入れますね。
最近でいうと、世界大会で対戦したサイフィジノフ・ジルショド選手(アメリカ)との試合の中で、勝敗の決め手となった彼の動きがあって、それはぜひ修得したいと思い、練習に取り入れています。
 

これは多くの選手たちが聞きたい点だと思うのでアドバイスをお願いします。自分より強い選手と戦うときに生まれる恐怖心はどのように克服したらいいのでしょうか。蘇選手には恐怖心などないかも知れませんが(笑)。 

恐怖心は誰にだってあると思いますよ。
自分にもありますし、チャンピオンクラスの選手たちにもあるでしょう。

恐怖心を完全に無くすことはできませんが、小さくすることはできます。それは防御の技術を磨くことです。
防御が上手になれば、自ずと恐怖心も小さくなりますよ。

また、自分に自信を持って練習をすること。これは自分の経験談なんですが、強い相手と練習して自分が引いたりしたときは情けない気持ちになり、ひどく落ち込みます。

■鉄の男、蘇選手からそのような姿は想像できません! 

最悪な気分になり、もう繰り返したくはないという一心で、がむしゃらに練習に打ち込みます。
ギリギリのところで踏ん張るような気持ちですよ。
でもそれを乗り越えたときの気分は最高にいいものです。

■マッソギってメンタル的な部分が大きいのですね。

九割はメンタルでしょう。

プロとアマの決定的な違いって、ボクはメンタルの強さにあると思います。プロだって恐怖心はある。
でもプロだから弱音は許されない。
弱気を見せないで攻めていく。これがプロ意識だと思います。
テコンドーはアマチュアですが、気持ちだけはプロ意識をもって戦いたいと思っています。

  世界で勝負

次の世界大会では「戦いにいく」という姿勢を貫くと語る蘇選手

心の支えとなっている家族とともに記念撮影

日本でも、国際舞台でも蘇秉秀の試合を魅せる

日本のエースとして世界でのメダル獲得に期待がかかる
(第15回世界大会 2007.4 スロベニア

充実した内容で全日本四連覇を飾り、選手として油の乗った時期を迎えていると思います。来年は世界大会も控えていますし、勝負の年となりそうですね。

そうですね。世界大会でメダルを目指すためには、並々ならぬ努力をしなければならないと覚悟しています。
一年をかけて調整していかなければ、世界では勝てないと思います。

目指すところはズバリ!

優勝です。

頼もしい発言です。昨年の世界大会では難敵相手にレベルの高い試合をしたので自信があるのではないでしょうか。

手応えはありますが、世界大会ならではの難しさも感じています。

世界での優勝は決して夢とは思いません。現実として手に入りそうで入らない難しさという感じでしょうか。

とにかく世界大会までに残された時間、モチベーションを維持し、練習に集中したいと思っています。

あとは自分を信じきれるかどうかですね。自分のスタイルに信念を持ち、最後まで貫き通すことができるかどうかが勝敗を分けるポイントになると思います。

これは前回の世界大会で対戦したサイフィジノフ選手との勝負で得た教訓です。ワールドクラスの選手の場合、僅かな隙でも見せたら、そこで終わりです。最後まで自分を信じ切れなかったがために見せた一瞬の迷いを彼らは決して見逃さないんですよ

いまはもっと巧くなれるという手応えを感じているので、練習を積み重ね、世界で結果を残したいと思っています。選手としては年齢的にも限りがあるので、残されたチャンスに賭けてみたいです。

これまでのように、世界大会で試合をするという意識から脱して、「戦いにいく」という攻めの姿勢を貫きたいと思っています。 

応援する側としても、蘇選手ならやってくれるという期待感が膨らみます。できれば、その鮮やかな大技で勝利するシーンが見られたら最高です。 

自分が持っているものをすべて出し切り、みんなにいい試合だったと記憶してもらえるような戦いを世界でも見せたいと思っています。

■最後に、蘇選手が感じるテコンドーの魅力とはなんですか。

奥が深いところです。登っても登っても頂上に到達できない、そんなイメージでしょうか。

たとえば、トゥルひとつ見ても、20年間練習してきても未だ満足できないんですよ。
理想に近づいてはいるが、決して思いどおりにはいかない。いつになったら満足できるのか、答えのない「未完」というものが、生涯修練したいという意欲を持たせるのかもしれません。

また、マッソギでしたら、一撃で相手が倒れるぐらいの強さを秘めた技を極め、その技をもってライトコンタクトルールにのっとった試合をする。その境地に至りたいですね。可能であれば、現役までの間にぜひ理想とする試合をしたいと思います。

■対戦する選手が気の毒のようにも感じられて……(笑)。でもテコンドーの魅力が見事に語られていると思います。

テコンドーで蘇秉秀選手が輝けば輝くほど、テコンドーという武道もまた輝くのではないでしょうか。今後の活躍に期待しています。

 Copyright(C)2004 ITF-JAPAN All rights reserved.