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 世界ジュニア&ベテラン大会特別企画E

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 ベテラン女子最優秀選手賞
  椿 順子

  
TSUBAKI JYUNKO/ツバキ ジュンコ 3段/副師範/東京綾瀬道場

△主な国際大会戦績
世界ベテラン大会女子トゥル(第2回〜第5回)連続優勝(1段、22回、3段)優勝
世界ベテラン大会女子マッソギ−54kg級 連続優勝(第2回、第4回、第5回 第3回は準優勝)
ナミズ 
ケンジ)

胸の奥に秘めた静かなる情熱

信念はやがて時を迎え、大きな力に変わっていく


感謝の心

決勝戦 優勝の瞬間

大会初日、会場で配られたゼッケンを見て、椿は少し興奮した。

333

ラッキーナンバーだ。合計が「9」となるのも好事。

9」と言えば、テコンドーの世界では意味深く、段位も9段が最高位で、つまりは最強、頂上を意味する。世界65カ国が出場する大舞台で、このような数字にめぐり会えたことは幸運だ。

数字の予見が当たるかのように、椿は前回に続きトゥル、マッソギでダブル優勝を果たし、日本では初となる国際大会最優秀選手賞に選出された。

夢のような瞬間、彼女の脳裏によぎったものは?

MVPだなんて考えもしなかったことなので本当に驚きました。凄く嬉しい気持ちと私を支えてくれた方々への感謝の気持ちでいっぱいでした。オリンピックなどを見ると、メダリストの殆どが、自分についてではなく周囲の人たちへの感謝の思いをコメントしてますが、今ならその気持ちがよく理解できます。本当に感謝の思いばかりが溢れて他に言葉が出てこないんです」

彼女の思いは協会HPに掲載した選手感想文でもよく表れている。

そこに綴られているのはMVP受賞の喜びや感激の思いではなかった。500字の大半はサポートしてくれた師範や仲間たちへ向けた感謝の言葉で埋め尽くされていた。

地道な努力


第14回世界大会(2005年・オーストラリア・サンシャインコースト)
国際大会 初出場 団体トゥル 銅メダル 獲得!

第2回世界ベテラン大会(2006年・ブルガリア・ソフィア)
個人優勝 輝く!!

第15回世界大会(2007年・スロベニア・ブレッド)
女子団体マッソギに出場


第3回世界ベテラン大会(2008年・ウズベキスタン・タシケント)
表彰台にて

第4回世界ベテラン大会(2010年・ベラルーシ・ミンスク)
2回目のW優勝に輝く


第5回世界ベテラン大会(2012年8月・エストニア・タリン)
3回目のW優勝に輝く

椿にとって、国際大会に出場することには大きな意味があった。

それは自らのステップアップを図る目標値になるからだった。

「大会に向けた強化練習の過程が自分の成長を後押ししてくれるんです。だから毎回大会に参加しているのだと思います。私は目標がないと前へ進めないタイプなので、まずは一歩先を目標設定し練習する。それを達成すれば、また次の目標をつくり努力する。それをコツコツと続けていけば、大きな目標にもたどり着くことができると思っています」

そういえば以前、黄秀一師範からも同じようなことを聞いたことがある。大きな目標の中で、成長するための課題を段階的に定めて日々練習してきたこと。その目標とは世界大会優勝であり、目標は見事達成されたこと。信条と行動が実を結んだとすれば、椿にもまったく同じことが言える。

椿の競技生活は遅いスタートだった。

37歳でテコンドーを始め、四十代に入り国際大会初出場を果たしている。

2005年、オーストラリアで開催された第14回世界大会に団体チームメンバーとして選抜される。結果もよく、団体トゥル、団体マッソギで銅メダルを獲得。団体競技ではあったが、彼女にとっては最も刺激的な出来事だったに違いない。

翌年に出場した第2回世界ベテラン大会では、女子マッソギ−54kg級、トゥル1段でダブル優勝を果たした。その後も連覇を重ね、結果的に金メダル7個、銀メダル1個という素晴らしい成績を残した。

年を重ねるごとに強くなっていく。通常の概念を打ち破るためには、並大抵の努力では実現できない。いったいどんな方法で練習してきたのだろうか。

「特別なことはしていません。みんなと同じ基本的な練習ですよ。ランニングや筋トレ、バランス力強化、基本動作、トゥルの反復。年齢とともにスピードや体力が落ちたことは否定できませんが、持久力は維持しています。

若い選手にはもうスピードでは適いませんので、どのような試合運びをするのか、いかに相手を翻弄するのか。試合の流れを先取することがとても重要になってきます。

今回の大会では驚くほど冷静でいられました。今までなら、先にポイントと取られてしまうと心が動揺し、自分の試合運びができなくなっていましたが、今回は不思議なほど心が落ち着いていて、ミスがあってもそれに引きずられることなく次を待てる余裕のようなものがありました。その点が成長したと思います」

年齢による壁は身体よりもむしろ心の中にあることも知った。様々な経験を重ねる過程で行き着いた思いは、欲を捨てること。

以前までは体力の衰えを認めきれず、無理に向上させようとして身体を酷使していた。

最後の出場となった昨年の全日本大会(第22回)後には、ふくろはぎを負傷してしまい、回復には半年以上かかったという。

今までだったら、完治を待ちきれず練習してしまったであろうが、今回ばかりは現状を受け入れ、今できることをすればいいと思える境地になった。

「怪我をするには理由があります。大会を前に頑張りすぎて疲労がたまっていたと思うんです。だからパフォーマンスも当然落ちていた。最も良い状態で試合を迎えるためには、自分の身体を管理し、きちんとケアしながら練習することです。
今の私は頑張りすぎず、できる範囲でやれることをやることが大事なのだと気づきました。
だから今大会の強化練習では、良いコンディションで練習することができたので、とても充実した時間を過ごせました。
今回の経験を通して、やり方次第で長く続けられるんだということを確信しました」


第22回全日本大会(2011年東京・代々木) 3段トゥル 銀メダル 獲得

揺るぎない信念


オムスクール 10周年記念会にて(2011年6月)
恩師 厳斗一師範と


オムスクール 10周年記念会にて(2011年6月)
指導員 記念演武


第60回昇段審査にて(2012年1月)
稽古生たちと共に歩んだ11年


試合を前に自己練習(2012年8月・エストニア・タリン)

日本選手団と共に旧市街地を散策(エストニア・タリン)

女子メンバーたちと食事のひととき(エストニア・タリン)

やり方次第。この言葉は椿の成長を知る上で重要なキーワードだ。

テコンドーを始めて11年、一番つらかった時期について質問すると、彼女の口からは5年前と同じ答えが返ってきた。

それは、選手としての自分と指導者である自分との葛藤だった。

その時期の彼女は道場の指導員を任されたことにより自分の練習が激減し、焦りと不安に悩まされていた。ついには、テコンドーをやめようとさえ思うほど追い詰められていたのだ。

そんなとき友人から言われた一言が彼女を救ってくれた。

「あなたならきっとできると信頼されて任されたんじゃないの」

目先のことにとらわれ、一番大切なことを失いかけていたことに気づかされた。

自問自答する中で、これまで築き上げてきた信頼関係やテコンドーに対する情熱を再確認した。練習時間がないと焦っていても何も変わらない。時間は自分でつくるもので、その工夫や努力をしていなかったことに気づいたとき、彼女は転換期を迎えるのだった。

「精神的に一番辛かったあの時期があったからこそ、今の私があるのだと思います」

今回のMVP受賞はこの時期の彼女からしてみれば、考えも及ばなかったことだろう。5年の歳月で最高の栄誉を手にすることができたのは、言い換えれば、この5年間がいかに充実した日々であったことを物語っている。選手として大きな功績を残し、指導者としては無二の存在となっているのだから。

「私は人より運動能力が秀でているわけではありません。でも自分の弱点を知り、地道に努力を続けることが目標を達成する道なのだと改めて思います。

次の目標はまだ分かりませんが、大好きなテコンドーをまだまだ続けていきたい」

心が折れそうなとき、友人の一言で気づき、改めることができる。

目標に向かう過程で、どんな試練が訪れようと諦めずに一歩ずつ進んでいく。

これが椿順子の、強さの理由なのかも知れない。

最後に質問してみた。テコンドー人生の中であなたが得たものはなんですか?

彼女は力強く答えてくれた。

「心から感謝できる人たちに出会えたことです」

 
    第5回世界ベテラン大会(2012年8月・エストニア・タリン)
                女子トゥル3段 優勝の瞬間

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