-5回連続出場となる世界ベテラン大会。大会を振り返り、トゥル、マッソギ別に自己総評してください。
トゥル
テコンドー(跆拳道)の二十四のトゥルには、創始者である故崔泓熙先生の理想、即ち、技術と精神の調和が凝縮されていると思います。
そこにマッソギにはないテコンドーの真髄があると考えています。
千差万別の状況が仮定された中での戦う技術、目には見えない精神をいかに修得してゆくかを稽古の主軸とし、徹底して技の分解と、量を重ねる稽古に重点を置きました。
大会前の3ヶ月間では、各24トゥルを百回以上反復練習し、このベテラン競技に出場した10年間の強化練習期間では、24のトゥルに対して、各々千回以上の練習をこなしてきたと思います。
量から質へと変化させるためには、やはり根気が必要です。
マッソギ
常に武道のテコンドーは「護身技術である」という概念を持ってマッソギの稽古を行い、競技に挑みました。
相手の攻撃からいかに自分自身を守るのか?これが私にとってのマッソギの理想であり、課題でした。
間合いを制し、自分から攻めずとも隙を与えない構えで自身を守り、相手の攻撃の虚を突き、実をとる。
まだまだこの理想に至ったと言えませんが、相手と自身との距離、力量、速度、体力の関係を即座に、明確に判断し、対応できるよう今後も稽古を積み重ねていきたいと思います。
―初のMVPを受賞したときの感想は
世界の一流テコンドー人が集まる中で選ばれたことに、恐縮する気持ちと感謝の思いしかありません。
世界には、高い技術と豊かな人間性を併せ持つ優れたテコンドー家、選手たちがたくさんいることを世界大会で見てきました。
パワフルで正確な技が群を抜いている世界大会常連組のスロベニアのイスメット・イカノビ選手は、精神的強さと謙虚さを兼ね備えた憧れの師範です。
また、前大会に続き6段決勝で戦ったチェコのリボール・マッチャン師範は、マッソギヘビー級で二連覇を達成しその強さを示す一方で、夜更けまでホテルのロビーで仲間たちと団体稽古をする姿がありました。私はチームリーダーとしての彼の責任感と優しさを感じ、とても感動しました。
トゥル2段優勝、マッソギとパワーで銅メダルに輝いたカザフスタン代表の女子カン・スベタ選手は、スポーツ省に勤務する、文武兼備の美人キャリアウーマンです。
今回、私は個人トゥル優勝、団体トゥル優勝、団体マッソギ3位という成績を収めることができました。
結果的に団体戦の内容も高く評価されての賞誉だと思います。
チームメイトがいなければ賞誉には選ばれなかったことでしょう。
団体で共に戦った須賀大輔師範、岩崎寛志師範、佐藤望副師範をはじめジュニア・ベテラン日本チーム29名のみなさまに深く感謝しています。
それゆえ、自分に与えられた身に余る名誉は、嬉しさよりも逆に責任と重みを感じ、その名に恥じないテコンドー家として、今後益々稽古に励み、自己修養に精進していかねばならないと思います。
―今大会ではどんな目標をもって臨みましたか。
これまで修錬してきたものが、世界の大舞台、世界のテコンドー家たちが競う場で、果たしてどれだけ通用するのか?
いま自分がどの位置にいるのか?
それを確かめるため、全力で挑みました。
タイトルにとらわれることなく「結果は常についてくるものだ」と思っています。
あえて目標というなら、世界の中で自分自身のテコンドーをどれだけ全うすることができるのかを試してみたいということです。
―世界ベテラン大会に出場しようと思ったキッカケ
いまの時代、世界中で人類の健康と生きるための活力として、あらゆるスポーツが奨励されています。
また、武道は生きていくための哲学、人の道を学ぶ哲学として世界で広く普及しています。
私は、武道テコンドーを修錬する者として、「競技に出場することは、それ自体が一つの修行方法である」と定義し、出場し続けることを目標に、この10年間一度も休まず競技に出場してきました。
―これまでの競技生活を通して悟ったものは
「継続は力なり」という言葉がありますが、それが何たるかを身をもって感じることができました。
目標に向かって、日々の小さな努力を怠らず、根気よく積み重ねていく。
その中で創意工夫が生まれ、大小の壁を乗り越えていく。
そして歳月をかけて修練を重ねながら、技が心に通じる瞬間を感じることができます。
心技一体とはこのことなのかと。
修練の先にあるのは「心の技、魂の技」への昇華なのだと悟りました。
自分の夢が大きければ大きいほど、目標が高ければ高いほど、大きな努力が必要とされ、好奇心や刺激、意欲、情熱がさらに増し、それを成し遂げたときに何とも言えない充実感と幸福を味わうことができるのです。
7歳から武道を始めて約40年、50歳を前に今思うのは、現役のまま稽古し選手として大会に出場するためには、日々夢と希望を持ち続け、小さな努力を重ねる所にあるのだと思います。
また、競技そのものはテコンドーの中の小さな一部に過ぎないということも悟りました。
武道は決して他者と比べるものではありません。
武道としてのテコンドーは修練するその人だけのものだと思います。
いま競技を親しんでいる若い人も、テコンドーの多彩で高い技術、深い精神性を学んでほしいものです。
なぜなら武道はスポーツや競技を超えたもの、即ち人生の道でもあるからです。
―現役を維持するために日頃心がけていることは
一日一歩 一日一生
一跆一生 一拳一道
この言葉を大切にしています。
一日一日を大切に生きる。
懸命に生きることの戒めとしてこの言葉を大切にしています。
―感謝している存在は
今の私を育ててくれた日本国際テコンドー協会ITF-JAPANの皆様に心より感謝しております。
日本国際テコンドー協会・故全鎮植初代会長(ITF首席副総裁)、西直記会長、黄進師聖、今大会の選手団団長・徐萬哲師賢、監督の黄秀一師賢、コーチ陣、審判の金一国師範、田部勝巳師範。
また、文相権師賢、野道秀明師賢をはじめとする協会理事たち、私を支えてきてくれた朴禎祐師範、梅田達哉師範はじめ朴武館の指導者たち、すべての協会の皆様に感謝しています。
周囲の方々のお陰でここまで来られたのだと心からお礼を申し上げたいです。
また、テコンドーのみならず、あらゆる面で私を育ててくれた諸先生方、両親、陰で支えてくれた妻と家族にも感謝しています。
―どんな指導者でありたいか
指導者である前に、私はテコンドーに親しみ、修錬する一人の修錬生として、心身鍛錬と精神修養を生涯続ける武道人でありたい。そして、次世代を育成する指導者、教育者でありたいと思います。
日々心に刻んでいるのは「自勝者強」の精神です。
1997年に故崔総裁が来日された際に言及された言葉ですが、当時深く感銘を受け、その精神が今の自分の指針となっています。
指導者として、この精神を稽古生に伝えていきたいと思います。
―これからの夢は
百歳まで道衣を着て元気にテコンドーの稽古を続けていきたいです。
恩師、尊敬する諸先輩、そして共に汗を流した同僚の師範たち、親しい稽古生、仲間たちと共に。
人生に押し寄せるあらゆる困難を乗り越え、百折不屈の心をもって生涯を一武道人として一途に生きることができければ幸せです。
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